情報戦の後始末

《気を付けろ、あれは妖の中でも異端だ》


気を付けろって、何に気を付けんのさ、漠然としすぎていてわかんない。


《ふむ、そうだな。言っても伝わるようなものではない。幻覚は我が見抜く》

《幻影は我が裂く。故にお前は、目の前のアレに集中しろ》

《うぬには我らがついている、安心して戦うがよい》


わかったけど、できる限り戦闘はしたくない。

話し合いで終わらせられるように努力はするけど、戦うことになったら……頼むよ。


《あぁ》

《任せておけ》


水晶のように透き通った瞳で見据える先には、その姿かたちがつかめぬ、正体不明がいた。


「だれだ」


そう問う正体不明は、こちらのことを警戒していると思われた。

思われたというのは、正体不明の心情など、まったくもって探れないからであった。

この状況、だれかもわからぬ者が突如として現れれば、だれだって警戒する。

だからおそらく、この正体不明も警戒していると思われたのだ。


「俺は、妖たちが平和に暮らせる世を作りたいんだ。そのためには、こんな風に派手な行動して、陰陽師に目を付けられる真似するような奴は消さなきゃいけない。君も死にたくないだろう?だったら、こんな派手な行動しないでよ。俺はこういった忠告をしに来ただけ。でも聞かないようなら、今殺すよ。」


淡々と、事前に決めていたことをしゃべる。


「妖が平和に暮らせるために目立たないようにするってのは賛成だが……もう遅い。陰陽師連中は妖を滅したいだけで、妖を滅せられるならその理由はなんだっていい。それこそ、まったく妖とは関係がない、人間の起こした怪事件なんかでも、妖のせいにして動くやつらだ、それを分かってて言ってんのか?」

「わかってるとも、だから俺がそれを止めるんだ」

「どうやって?」

「……俺がその怪事件を解決する」


その答えは意外だった。

たとえ解決できても、奴らは信じたりしないから。


「人の身で妖の味方をする、面白い奴がいたもんだ。だがなぁ、もう遅いんだよ。派手な動きするなって言うがなぁ、忠告がおせぇ、始まった後に言われても困る。興が冷めたし、特に暴れず帰ってやる」


そう言って山へと降りていく。


ふぅ、これでとりあえずは一安心、かな。


《いや、気がかりなことがある》


もう始まっているって話だろ。


《あぁ、何が始まっているのか、それを突き止めなければ妖を護ることが出来ないかもしれん》

《もう始まっている、か……数日前に見た光との関係性があるかもな》


あれと?

ちょっと待って、あれからは妖力を感じなかった。

妖とは関係ないでしょ?


《いや、あるかもしれん。我は二千年の時を生き、世界を見てきた。ドラゴンやエルフと言った、人とは違う種族も見たことがある。そしてそういった種族のいた国では、妖術などではなく、魔術と呼ばれるものを使っていた》


ふーん、つまり君は、魔術師などがいて、そいつらが関わってきている可能性があると考えてるんだ。


《あぁ》


それじゃぁ、妖術と魔術の違いは何?


《妖術を使えば妖力が減る。魔術を使えば魔力が減る。妖力と魔力、どちらか一方しか手には入らぬ。どうやって決まっているかは知らぬ》


そう、なら問題はない。

とりあえず、あの光は魔術と思われるでいいんだね?


《あぁ》


君は魔術を見たことがあるね?


《あぁ》


もう一度聞こう。

あの光は、魔術と思われるんだね?


《あぁ、あれは魔術だと思うのだが、何分我も魔術についてはあまり詳しくない故言いきれぬのだ》


良いの良いの、そんな申し訳なさそうにしないで。

誰だって知らないことくらいある、たとえ君達でもね。

さて、それじゃぁそろそろ帰ろうか。


炎をまとう少年は、町へと帰っていく。


はぁ、ようやく帰ってくれた。


下から見上げていたソレは、酒呑童子を抱え上げると山の中を駆けて行った。




「さて君たち、意見交換だ。かんなぎは少し休むと言ったが、具体的に少しとはどれくらいだ」


真剣な顔をして、ボスは問う。


「少しという曖昧な表現では、具体的な時間は不明だ。よってこちらが決めてもいいんじゃないか、と思う」

「少しっていうのは人によって違う、だから発言者にとっての少しが基準になると思う。今回の発言者は、俺だ。最初に言ったのはあいつだが、最後に俺が少し休んでろと言ったとき、あいつはそれに了承した。だから、俺にとっての少しが適応される、と思う」


この二つの意見にボスは満足げだ。


「いやー、気が合うねぇ、君たちに聞いて正解だったよ。前まではそんな暴論がとおるわけないとか言われちゃってたりしたからやりやすいよ。さて、少しってどれくらい?結論は出たかな?それならせーので言ってみよう。せーの」


「「今すぐだ」」


「ということで……アルバ行ってらっしゃーい」

「待て、場所が分からないから俺は行けない」

「ふむ、緯度って知ってる?」

「……知らない」

「そっか~、じゃあ仕方ないけど」

「待って、ウラノスが知ってるって言ってる」

「ずいぶん信頼されてるみたいで嬉しいよ」

「そりゃあ仲間だから」


二人はにらみ合い、数秒の時間が経つ。

ボスは手を叩いて意識を向けさせる。


「ハイ、そこまで。アインス、面白そうな子が入ったからって喧嘩売らない。アルバは売られた喧嘩をホイホイ買わない。わかった?二人とも」


返事はしなかったが両者頷く。


「さてアインス、巫は何処に倒れていると思う?」

「わからんが、問題ない。ソイツなら、上から見下ろせば見つけられるはずだ」

「了解、じゃあ座標出して」

「ん」


返事をして、アインスはモニターに座標を表示する。


今ので分かった?


《あぁ、問題ない》


「問題ないって」

「ん、じゃあ行ってらっしゃーい」

「行ってくる」


アルバは虚空へと消えていった。

一分ほどで巫を抱えてアルバは帰ってきた。

巫をベッドに放ると、自分は椅子に座った。


「ソルト、来て」

「ただいま参りました、ボス」


床から跪いた体勢でソルトが現れる。


「脳の修復とグレードアップをよろしく」

「了解いたしました」


ソルトはベッドに乗り、巫の頭部に触れる。

ソルトの手が白く発光する。

隣のベッドで寝ていたカラミティは飛び起きる。


「カラミティ、邪魔すんなよ」


アインスに言われて頷く。


あれ、真似できる?


《無理だな。我はあそこまで精密なことはできぬ》


そう、お前ができないなら相当すごいことなんだな。


《脳細胞一つ一つを、もっと言えばDNAレベルでの改造をしている。と言ってもお前にはわからんだろうがな。お前にわかるように説明するなら、この間見た小さなモノ、数え切れぬほどのそれを、一分の狂いなくすべて同時に操作している。恐ろしい奴だ》


こいつに勝てないのか?


《勝てる。確かに精密さで言えば奴には勝てないが、こと戦闘において我を相手に勝つことなどできぬ》


そう、ならよかった。


《ふん、神の名は伊達ではない》


それに、神がどれだけ無知で愚かかを我は知っているからな。


「できました、ボス」

「ん、ありがとね」

「礼には及びません。ボスの命令を遂行するのが私の使命です」

「いいからいいから、礼はしっかり受け取りなさい。誰かを助けたにもかかわらず、対価を欲しがらないってのは、ずいぶんと気味悪がられるものだからね」


そう言ったボスはソルトではない、他の誰かを見ているような気がした。


「それでは、お褒めに与り光栄です」

「まぁ、うん、それでいいよ。それじゃあもう、帰っていいよ」

「はい、失礼します」


ソルトはそこから姿を消した。


「それじゃあ次は、僕の番だ。まぁ簡単だけどね」


シナーが巫に触れると、巫の心臓が、動き出した。

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