第43話暗躍

1週間後、ゲンの工場下に拡がる広大な地下空間。


「ここはいつ来ても別世界だな。ゲンさん、例の銃なんだが」


ゲンは零士に言われると、黒い強化プラスチック製のガンケースを取り出す。


「こいつの出番も久しぶりだな。*マクミランtac_50対人狙撃銃。手入れは完璧だ」


*アメリカ、マクミラン.ファイアーアームズ社製。口径12.7ミリの対物ライフル。


「ありがとうゲンさん。見ただけで良く整備されてるのが分かるよ」


「零士、氷室の無茶な要求に応える必要が本当にあるの?ゲンさんも止めて欲しいんだけど。


強風の中、レインボーブリッジの支柱からの狙撃なんて、標的は100キロはスピードを出してるんだよ!」


「2017年6月22日にカナダ軍のスナイパーが、イラク治安部隊を攻撃しているのISILの兵士を3540メートル先から狙撃、見事命中させたのが今の所世界最長記録だ。零士ならやれるさ」



「火に油注いでどうすんの!」


そんな彩を他所に。


「有香さんが残してくれた銃だからな。大丈夫、上手くやるさ」


「それだけは羨ましいと思う。私は有香さんに教われなかった。格闘技とか、射撃はゲンさんやメルヴィさんに隠れて教わってたし」


「訓練生になるのも、認めなかったからな、お嬢は」


「血生臭い世界に引き込みたくなかったのさ。俺はそう思う」


話しながら、零士は狙撃銃を取り出して、800メートル先の的に狙いを定める。


「要望通り、銃にはサイレンサー(消音装置)にバイポッド(固定脚)、スコープはナイトフォースのビーストを付けておいたぜ」



「完璧だよ。それじゃ、試し撃ちと行きますか」


【バシュ!】

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同じ頃、総理官邸。


重苦しい空気の中、総理大臣の阿賀野は、防衛大臣と極秘に話し合いをしていた。


「例のヴァルハラとか言うPMCですが、契約は成立しました。条件として法的な立場の保証と、超放棄的な実力の行使、本当によろしいのですね?」


「ああ、大掃除だからな。自衛隊はこの場合使えないだろう。S班は、もっと大事な時に使いたい」


「分かりました。彼等の残りの人員と装備は百里飛行場で受け入れます。それと沖縄の公安からの報告書ですが」


「目は通したよ。いよいよかもね」


「総理、中川さんが勝手に動いているみたいですが。それは宜しいので?」


「それも聞いているよ。困った人だ。アウトローの殺し屋に頼って何を考えているのか。

竜星会も、これ以上大きくなってもらってもな。

国内の対外国マフィアにと多目に見て来たが、あまり調子に乗せても困る。

この際だ、事が公にならないよう、手を打つ必要があるな」


「はい。また教団にも動きがあるようです」


「やれやれ、慌ただしくなって来たな。生天目さん、苦労をかけるね」


「いえ、仕事ですから」


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千葉県内某所。世界平和統一教団日本支部ビル。


欧米ではカルト認定されている宗教団体だが、日本では300万人を超える信者を抱える巨大組織。


高齢の神父姿の男が、スーツの中年の男に尋ねる。


「月夜の群狼か、有名な傭兵団なのかい?」


「ヨーロッパや中東、アジアに中南米。広く活躍しています。金は掛かりましたが、借りに自衛隊の対テロ部隊が出て来ても大丈夫かと」


「分かった、任せるよ」

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