第33話霧散
一礼して捜査1係の部屋を出る小谷。
「やれやれ、どうしたもんかな?」
その姿を見送りながら、佐々木は次の一手を考える。
「一筋縄では行かないか......。残るは事件当日の目撃情報にワインボトルか、うーむ。」
そこに課長の大竹が現れた。
「あれ?どうしたんですか課長。」
深刻な表情の大竹。
「佐々木警部補、本日をもって新堀殺害事件の捜査は終了です。この事件は本庁に移管されます。」
「えっ!?ちょっと待ってください。何で此処で本庁が出て来るんですか、それは可笑しいですよ!」
「佐々木さん、貴方の言いたい事も解るわ。でもこれは上からの指示です。理解して下さい。」
「.......解りました。部下達にも伝えます。」
大竹は無言で出て行く。
「手が回ったって事か、まぁ、珍しくもないんだろうがな.......。」
捜査1係に戻った捜査班の面々は、佐々木の捜査終了の言葉に声を失う者や憤慨する者、それぞれ反応は違ってはいたが、佐々木の表情にこれ以上は自分達の力でどうにもならない事を察した。
その日の当直を終え、帰宅した武田梨沙。
そのままグッタリとしてベッドに倒れ込む。
「初めて大きな事件を解決出来ると思ったのに、こんなのあり?有り得ないでしょうがー!何で本庁に横取りされなきゃ行けない訳?頭に来るー!」
怒りをぶちまける。そこにスーツ左内ポケット内のスマホにメールの着信音が響く。
「んー?誰だろこんな時間に?どれどれ。え、嘘でしょ?」
メールの送り主に武田は驚きの声を挙げた。
翌日。カフェ、バンビーナ。
そのバンビーナのカフェテラスに武田梨沙の姿があった。
「そろそろ時間の筈なんだけど、時間は間違えてないし......まぁ、待つのは慣れてるから良いけど。」
そう言いながら梨沙はスマホで待ち合わせ相手からメッセージが届いてないか確認する。
「なしか、さてさて。あっ?」
突然目の前に誰かの手が現れて、武田の視線を塞いだ。
「だ~れだ?」
「誰って、呼んだあんた以外居ないでしょうが。ウル。」
「あはは。だよね~。」
声の主は手を離し、武田の前の椅子に座った。見事な金髪碧眼の女性だ。
「ふふっ。全くウルらしいよね。でもさ、暫く日本には来ないって言ってたのにどうしたの?」
ウルは身を乗り出すように武田に近づく。
「ちょ、近い近いって。」
「あ、ゴメンゴメン。でもさ、聞いてよ。本当は9月辺りに日本に来る予定だったんだけどさ。急に変わっちゃって。
同僚と一緒に団体で戻ったんだけど、まぁ、梨沙に会えるし、私は良いんだけどね。」
なんだか不満そうなウル。
「ふーん。休みが潰れたとか?」
「まぁ、そんなとこ。それに久しぶりに厄介な事に成りそうだし。
ふぁ~(あくびをしながら)パパがさ、お前は日本語喋る事が出来るし、読み書きも出来るから、クライアントとのやり取りには役に立つ筈だ、しっかり頼んだぞって。
同僚にはベテランも多いから、若手の私は下に使われる事も多くてけっこうストレスなんだよね。ふぅ。」
「ふふっ、なるほどね。不満爆発しそうなんだ。良いよ、何でも聞いてあげる。
今日はオフなの?」
「ううん。(首を振りながら)梨沙さ、あっ。」
言いかけた所でウェイトレスが現れた。
「いらっしゃいませ~。こちらメニューになります。ご注文がお決まりになりましたら、テーブル中央のボタンを押してください。」
「は~い。何か飲む?」
「そうね~。じゃあ抹茶ラテかな?ウルは?」
「ん~。苺パフェかな?」
「苺パフェ?」
「うん。前に来た時は美味しそうだったけど、梨沙呼び出し受けて頼めなかったじゃん。だから苺パフェ。」
「ふーん。女の子って感じだね。パリで初めて会った時から、ウルは変わらないな~。」
「梨沙はどうなの?」
「えっ?何が?」
ウルは笑みを見せながら、更に続ける。
「だから~。あれから彼氏とか出来たの?」
「ちょ、な、何言ってんの!」
「あー、この反応は......前にさ、この店に来た時に、カッコいい感じの男の人にぶつかったでしょ?あの人なんか梨沙にピッタリだと思うんだよね。」
「ぶつかった?あー、はいはい。あんた良く覚えてるわね。」
「ふふん。伊達に飛び級で大学出てないからね~。」
ウルはなんだか得意げだ。
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