第2話 青狼の指輪

さん」

 結音ゆのはすがるように乃武を見上げた。落ち着いた優しそうな雰囲気の男だが、長く狼族本家の守りについている重鎮である。


「弱い者は流される、根無し草は繋ぎ止められない」

 乃武は冷ややかに転がっている狼達の首を見下ろした。

「わかってるなぁ、さすが次期リーダー」

 びゃくは馴れ馴れしく乃武の背中をバンバン叩いた。


「お久しぶりです、白哉様」

「200年ぶりくらいかなぁ」

「白哉は誰とでも知り合いか?」

「パパと呼んでよ、ことちゃん」

 真琴は無視して続けた。

「それにしても冷たすぎひんか?」

「まだまだお子ちゃまやなぁ」

 幼い子供をあやすように頭を撫でる白哉の手を、真琴は鬱陶しそうに振り払った。

「大人になればわかりますよ、結音も真琴さんも」

 結音は不服そうだが反論の言葉が見つからずに黙っていた。


「それより、急いだ方がエエんちゃうか?」

 白哉は真琴の横にピッタリ並びながら本堂を見た。

「行こか」

「白哉も?」

「当然や、娘と姉を護らなアカンしな」

 白哉は白い歯をのぞかせた。


「あたしも行くわ、せきろうの指輪があるんでしょ」

 結音の言葉に、真琴は露骨に嫌そうな顔を向けた。

「何よ」

 勝気な目で睨み返した結音に、乃武が口を挟んだ。

「足手纏いになるだけだ」

 乃武の言う通りだと自覚していた結音は、悔しそうに拳を握った。


 そんな結音に乃武は手を差し出した。

 掌に輝く小さな指輪を見て、結音は目を疑った。

「これは!」

「お前なら使いこなせるだろうと、せいろう様が」

 驚きと戸惑いの目で見上げる結音。

「あたしが?」

「凌生がはめた時、至近距離にいながら妖力を奪われず正気を保てたのはお前だけだった」

「そうだけど……」


 差し出された指輪を、結音は受け取るのを躊躇っていた。

「やはり、怖いか? 凌生りょうせいのように自滅するかも知れないと」

 結音はゴクリと生唾を飲み込んだ。

「しかし指輪の力がなければ、お前は森へ行っても役立たずだ。行くのをやめるか? 研斗も死んだし、赤狼の指輪を狙うモノもいないだろうしな」


「そうや、アンタはここで待っとき、あたしが取り戻してきたるわ」

 真琴は意地悪く言った。

「化け猫なんかに任せられないわ!」


 言うや否や、乃武の掌から指輪をひったくり、その勢いのまま、結音は自分の指にはめた。

「あ……」

 挑発したものの、結音の思い切った行動に真琴は慌てた。指輪の妖力に負けて自滅する凌生の最期を見ていた真琴は動揺した。


 結音自身も何かが起きると予想して固く目を閉じながら身構えたが……。

「え……?」

 何も起きなかった。

 右手の中指に収まっている指輪をかざして見たが、別に変化はない。

「コレ、本物なの?」


 確認しようと乃武に視線を向けたが、そこに姿はなかった。

「乃武さん!」

 乃武は気を失って地面に横たわっていた。


「本物みたいやな」

「すごいなぁ君、青狼の指輪に選ばれし者か」

 そうなのか? 実感のない結音は、呆然と乃武を見下ろした。


「ほな、行こか」

 白哉は本堂に向かって歩き出した。

 真琴と結音もそれに続いた。


 一方、炎に包まれた門の方からは、消防車のサイレンが喧しく響いていた。

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