第294話 女騎士の胸の内!


 俺達は再び聖なる丘に集まった。


 戻って来る途中は、地団駄を踏んで歯噛はがみするカシラを横目に牽制けんせいしつつ、ジークさんの騎馬に乗せてもらって来た。(ユリウスは反対周りにカール達を拾って行くのだ)


「ねぇ、ジークさん?」


「なんだ?」


「ジークさんって、もしかしてユリウスのこと……意外と気に入ってる?」


 騎馬に二人乗りしてるので、俺はまたジークさんの腰に手を回してしがみついていた。そのため、彼女が俺の質問にビクッと反応した事がよく伝わって来る。


 わかりやすい人だな。


 こんな時なのに、ニマニマが止まらん。いやいや、意外と良い組み合わせじゃないか。


 彼女はうわずった声で答える。


「ば、馬鹿なことを申すな!あんな年下で、地方の出で、身長が同じくらいで、弓はイマイチだが剣の腕はまあまあな奴で、女にだらしなくて、それでいて初めから私を女扱いするような奴が気になるわけが無いッ」


「そ、そうですよねー」


 俺はあまりの剣幕に同意するしかなかったが、だいぶ感情がダダ漏れの気配がある。彼女の顔が見えないのが残念だ。もしかしたら真っ赤になってるかも。(応援してますぜ、ジークさん)


 そうこうしている内に、ボロに追いつき、そして丘に到着した。


 丘では白金色に輝くフォリアが満面の笑みで出迎えてくれる。


『よくやった!これで奴らは結界からは逃れられぬ』


「うん、この中の獣から黒い霧を追い出せばいいんだな」


『お前はまだ、彼奴あやつらを救う気か?』


「出来る限りは」


『……』


 まあ、助けたいのは俺の勝手なわがままだから、フォリアが面倒くさく思うのは仕方ない。


 じっと目をつむって考え込むフォリアに、ふとカリンの面影を重ねてしまう。


 彼女はパッと目を開くと、腕まくりをした。


『ヒロキ、今から結界の力を強める。黒い霧が出てきたら後は頼むぞ』


 ありがとう、フォリア。

 もしかしたらこれはカシラを取り戻すチャンスかもしれない。


 俺はジークさんにそれを伝えた。


「わかった。深緑騎士団も中に入ろう」


「ジークさんはこれを」


 そう言って特製の銀の矢を渡す。七本全てだ。俺よりもジークさんの方が弓が上手いから任せようと思う。


「お前はどうするつもりだ?銀のナイフも無いのだろう?」


「まだ、水鉄砲があるんだ。これで黒い霧を消滅させようと思う」


 銀の武器がない今はそれが俺の——俺達の武器だ。


 ジークさんはうなずくと、銀の武器を持たない騎士団に俺達を護衛するように指示を出す。怪我をした人は丘に待機だ。


「魔力の矢はまだありますか?」


「すまぬがもう使い切ってしまった」


 謝ることじゃないのに。

 律儀な人だなぁ。


 そこへユリウス達がやって来た。


「コリン!ありがとな!」


「ん……村は大丈夫だ、よ」


 コリンは照れたように笑う。カールも、エレミアも結界が成功したので嬉しそうだ。


「黒狼が向かって来たときは、ドキドキしたわよ」


「いや、おれはフォリア様を信じてたもんね」


 相変わらずの二人だ。俺が微笑ましく見ていると、その脇をユリウスが通る。ジークさんに呼ばれたようだった。


 ……なんか、この二人のことを別の目線で見てしまうな。この戦いが終わったら、じっくり話を聞いてみたいところだ。


 ジークさんは俺の低俗な考えなど知るよしもなく、鎧の胸元から小さな短剣を取り出した。それをユリウスに渡す。


「ジーク様、これは……」


「部隊長に支給される銀の短剣だ。これなら黒い霧と戦える。使うが良い」


「しかし、私はまだ若輩者じゃくはいものゆえ……」


「ええい、うるさい。救世主殿ヒロキを守る為に貸し与えるだけだ」


「……では、お預かり致します」


 ユリウスは短剣をうやうやしく受け取ると、膝をついて礼をする。ジークさんはもはやユリウスを見ずに、戦場を見据みすえていた。


 俺は下らない考えを捨てるように頭を振る。ジークさんの戦いに専念する姿に感銘を受けたのだ。


 さあ、魔物退治だ!


 先頭切って結界の中に入る。


 真後まうしろには女神フォリア。両手を広げて目の前の大きな結界に力を注ぎ込む。その結界は次第に明るさを増し、真昼のような明るさが、戦場に広がる。


『むうっ!』


 グロスデンゲイルのうめき声が聞こえた。フォリアの力が効いているのだろう。最前列に陣取っていた黒狼の一団が、見えない力に押さえつけられたように大地にす。震えながら苦痛の声をらす。


 と、一匹の身体から吹き上がるように黒い霧が放出された。


「行くぞ、みんな!」


それを見た俺は水鉄砲を構えて走り出した。




つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る