第265話 黒き鹿の狂気!
黒く、狂気に満ちた鹿の群れは、その仲間までも踏みにじりリール村に襲い掛かった。
跳躍した黒い鹿は結界に跳ね返され、後続の仲間の上に落ちる。仲間を踏み台にして再び跳ぶ者もいれば、落ちたところを踏み
だが奴らは誰も意に介さない。
それが当たり前であるように、一心不乱に彼らは村の結界を破る為に向かって行く。
奴らは何かを知っているかのように、村の門のそばを中心に体当たりを繰り返す。
「マズいな……」
あの辺りにはリール村の結界をつくっていると思われる、フォリアの紋章が刻まれたタイルが埋め込まれている。あれが剥がれたり、壊れたりしたら、結界は弱まってしまうのではないだろうか。
「土壁そのものも、フォリア様の
「うん、だけど一部だけ集中攻撃なんてされたら、あの壁だってもたないぞ」
俺は三種類ある矢のうち、普通の矢と、フォリアの力を宿した魔力の矢の二種類を選んで、矢筒に入れた。腰につけるホルダーにぶら下げ、右手側の腰の後ろに回した。
左手には弓を持つ。
「後ろから援護して来る」
少しでも黒い鹿達の気をそらして、こちらに引き付けられればいいんだけど。
「気をつけて、ヒロキ」
「おう」
まずは残っている黒鷲に狙いを定めた。連続で弓を引けるように、ホルダーの位置を確かめる。
キリキリと引き絞り、その溜め込んだ力を矢に乗せて放つ。矢は真っ直ぐ飛んだが、黒鷲が結界から離れた瞬間だったため、奴を
「あわわ、ヤバイ!」
矢は村の中の誰かの家の屋根に突き刺さったのが見えて、俺は胸を撫で下ろす。人に当たらなくて良かった……。
だめ、無茶しない。
近くで大きな的を狙うのが俺のやるべき事だな。
気を取り直して、二本目の矢をつがえる。村の手前でぶつかり合っている黒い鹿の群れを狙う。
どこに撃ち込んでも当たるだろうとは思いながら、奴らの背に向けて矢を放った。
矢が刺さった角のない
俺はそっとホルダーから魔力の矢を抜いた。この矢にはどんな力があるかわからない。でも、ごめんな。俺はリール村の人達を救いたい。
そう心の中で謝りながら、俺はその矢をつがえた。心なしが矢がぼんやりと光を帯びている。
フォリア、この矢で黒い霧を
俺は矢を放った。
魔力の矢は吸い込まれるように、一頭の牡鹿に当たった。刺さった瞬間、パァッと銀色の輝きが広がり、その光を浴びた黒い鹿達は動きを止める。
「あっ!色が戻ってる!」
矢を受けた鹿と光を浴びた鹿達の体色が普通の鹿になっていた。大きさも顔つきも戻っていて、急に正気に戻ったみたいだった。
これなら——。
これなら大地を射ても良い。光の輪がその範囲内の黒い鹿を元に戻すようだ。
俺は生き物を
喜んで次の魔力の矢を撃とうとした時、異変が起こった。
鹿の体から抜けた黒い霧が収束して黒い帯になる。そのままふわりと浮いて、別の黒い鹿に張り付いた。
「あっ!」
つづく
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