第244話 迫りくる脅威!

 カリンにある物の作り方を教えて材料を持っていってもらったのは、翌朝だった。一人彼女を丘の上から見送ってから、黒雲のわだかまる遠い山の方を見ると、じわじわと黒い霧がにじみ出て来ているのがわかった。


 どよどよとこちらの方へ流れ出てくる。


「あれ?」


 なんだか、流れが早い。

 思わず目をこする。


 間違いない。禍々まがまかしい黒い霧が目に見えてこちらに向かって来る。


「嘘だろ」


 俺はユリウスを呼びにカリンの後を追った。



 村の入り口でカリンを追い越す。


「ヒロキ?」


「大丈夫!それを頼むよ」


 振り返りつつ彼女に返事をする。そのまま村の中を走り抜けて行くと、ユリウスの借家へ。ドアをバッと開けると——。



 今にも唇と唇が触れ合いそうになっているユリウスと村の女子がいた。



 ドアが開いたのに気づき、慌てて身を離す二人。女子は顔を真っ赤にして、そそくさと出て行った。


「お前、こんな時に何してんだよ」


 呆れた俺の声に反駁はんばくするようにユリウスも声を荒げる。


「お前こそ、なんてタイミングで入ってくるんだ!」


「中でそんな事してるなんて思わないだろ!」


 ユリウスは人差し指を俺の目の前に突きつけるようにして、ゆっくりと俺をさとすように言う。


「いいか、ず、ノックしろ」


 それもそうだな。


 しかしユリウスは落ち着いている。女子は顔を赤くして逃げて行ったのに、コイツは顔色ひとつ変えずに言い返す。そういうところを見ると——慣れてやがるな。


 多少の嫉妬心を持ちながらも、俺は考える。『先輩』にいろいろ聞いておいた方がいいだろうか?


 良い雰囲気の作り方とか、女子が喜ぶ台詞セリフとか……。いや、それより聞いておかねばならない事がある。


 さっきの女子は、この前食事を運んで来たマリーではなく、リーゼだった。栗色の髪の美人で気の強さはエレミアに負けず劣らずだ。


「そういう事をする仲という事は、ついにリーゼに決めたんだな?」


 俺がビシッとそう言うと、ユリウスは慌てて手を振って否定する。


「ち、違う違う。別に本命というわけではなくてな……」


「本命じゃない女子にあんなことするなよ!」





 つづく

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