第241話 彼らの事を応援しても良いだろう!


「あの二人はしっかりしているから、そんなことしないと思います」


 えっ?という顔をして三人が俺を見る。とりあえずオリビエさんが口を閉じて、俺の顔をじっと見つめた。


 カールのお母さん・オリビエさんは自身の結婚について、従兄妹いとこ同士という理由で反対を受けていた。それでもケンプルさんとかれあっていて結婚したわけだ。


 そして再び血が近い従兄妹いとこ同士という息子・カールと姪・エレミアの事で心をざわつかせている。


 自分達と似たような境遇。


 反対するのか、応援するのか。


 俺が適当な後押しををしてはならないのはわかっている。俺が女神フォリアのつかわした救世主だと思われているから、俺が「大丈夫」なんて言えば、オリビエさんは信じるだろう。


 だから、公言はできない。


 でも、援護はできる。二人は黙って駆け落ちするような事をするやつらじゃない。それだけははっきり断言できる。


「そう……そうですよね、ヒロキ様。カールとエレミアなら、堂々と言ってきますよね」


 うん。そうだよ、オリビエさん。

 そういう二人だよ。


 オリビエさんは少し頬をあからめながら、


「嫌だわ、私ったら。何を心配しているのかしら?村長、奥様、お騒がせしましたわ」


 そう詫言わびごとを並べて、そして更に俺に向き直ると、


「ヒロキ様、ありがとうございました。なんだか心のモヤモヤが晴れたような気がします」


 と謝辞しゃじを述べた。


 俺は軽く微笑んで、持ってきた薪をデルトガさんの家の前に置いた。すれ違いざまにデボネアさんにお礼を言われる。


「ヒロキ様、ありがとうございます」


 デボネアさんも微笑んでいる。


 良かった。

 とりあえずオリビエさんが安心したからだろう。


 薪運びの礼とともに、村長から工房での話をされる。


「ヒロキ様、鍛治の方は進んでおりますかな?」


「はい。小さいけど、ナイフが出来ました。あとは柄をつけて刃を研ぐそうです」


「ほっほっほ。グスタフはこの辺ではなかなかの腕前でしてな。宝の持ち腐れになるところでした」


 鍛冶屋の音は村を活気付けるらしい。

 俺はなんだか浮かれた気分で工房に戻った。





 工房の前ではボロが俺の帰りを今か今かと待ち構えていた。俺の姿を見ると、「早く早く」と俺の腕を掴んで引っ張って行く。


「ヒロキ様——」


 グスタフさんが黒い布を広げて、その上に銀色に光る小さなナイフを載せていた。そっと差し出されたそれは木で作った真新しい柄が付いている。


「どうぞ、お納めください」




 つづく

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