第239話 ナイフをつくります!


 翌日——。

 俺はジークさんに渡された弓矢を持って、村へ急いだ。矢尻やじりを付け替えてもらうためだ。


 グスタフさんの工房に飛んで行くと、朝早くから土間が開いていて、ボロとダズンが忙しそうに動いていた。


「おはよう」


「あっ、ヒロキの旦那!」


 その声を聞きつけてか、グスタフさんも奥から出てきた。


「ヒロキ様、出来ていますよ」


 話を聞くとあれからも作業をしたそうなのだ。ラインからはずして刃を整えて研磨までしたというだけあって、出てきた矢尻は銀の色の輝きを放っていた。


「綺麗に仕上がったのは7つですね。矢をお預かりして、付け替えましょう」


 おお!

 これで黒い霧に有効な武器ができたも同然!


 あとはもっと強そうなナイフなど作って欲しい所だけど……。


「もちろんです。ヒロキ様にも是非ぜひ鍛治仕事をお見せしたい」


 グスタフさんは張り切っている。

 どうやら既に炉に火が入っているようだ。彼の合図でボロとダズンが空気入れを構える。


「頼むぞ!」


「へい!やるぞ、ダズン!」


 ダズンは低く唸ると、改良された四連空気入れを押し込んだ。炉の中の炎が一気に燃え盛る。続けて風を送り込む必要があるので、ボロも負けじと空気入れを押す。風量に差があるのが難点だが、うまくいっているようだ。


 しばらくすると、グスタフさんが炉の中段の扉を火かき棒で引っ掛けて開ける。中には焼けた石が敷いてあった。その上に銀のスプーンを数本入れる。


「鉄より早く柔らかくなるのでしょう?感覚が難しいですね」


 長く炉に置いておけば昨日のように溶けて下段に落ちてしまう。形が残っていても持ち上げて切れてしまうのでは鍛造たんぞうできない。


 それでもグスタフさんは昨日の銀の溶けた時間の感覚から、炉を覗いてみる。きっと熱せられた金属の色で判断するのだろう。




 仕事が始まるのは意外と早かった。


 グスタフさんはサッと炉の扉を開けると黄金色に輝く塊を火挟ひばさみで掴み、土間の中央にある叩き台へ置いた。


 そこからは一気に叩きに入る。


 左手に火挟み、右手にハンマー。

 グスタフさんはそれを振り上げると、狙い定めたように振り下ろした。


 金属と金属のぶつかり合う音が響き渡る。初めは力強く重く重く——。そして次第に硬質な音に変わり、細やかな音になる。


 そうして熱い塊はまとめられひとつの形を作っていく。


 何かを確かめながらグスタフさんは火挟みでその小さな塊をつまみ、再び炉に入れる。熱せられたらまた叩く。これを何回も繰り返して、銀の塊は三日月型の形に近づいていった。




 ただでさえ暑い工房の中に更に蒸気の熱が加わる。仕上げに水桶の中に浸された小さな三日月は、ナイフと呼んでもおかしくなかった。


 額から汗を流しながら、グスタフさんがそれを見せてくれる。


「ふぅ、あとは仕上げです。いでおきますね」


「ほとんどできていますね。刃がだいぶカーブがついていますけど……」


「フォリア様と言えば月も象徴のひとつですので、三日月のように刃先を細く反らせてみました」


 なるほど、確かに女神に似合いそうだ。(持つのは俺だけど)


は木で作ってよろしいですか?」


「あ、はい。お任せします」


 木工も得意なグスタフさんだもの、お任せするのが一番だ。


 俺は矢も預けて、出来上がるまでユリウスのところにでも行こうかと工房を出た。


 幸い彼は借家のそばに居た。昨日出た木材を気前よく女子の為に運んでいたのだ。そういえば解体された家の跡地には材木がまだ残っていた。


 そしてまだ材木を薪の大きさに割る作業が行われていた。だいぶ鍛治に使ってしまったから、ユリウスみたいにせめて各家庭に運ぶくらい手伝おうかな。


 俺がそう言って手伝いを申し出ると、皆に申し訳ないと遠慮されてしまった。


 いつもならそこで引っ込んでしまう俺だが、それもかっこ悪いので村長のところに行くからと、半ば強引に手伝いに参加した。



 つづく

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