第234話 その道具ならあの部屋に!

 残りの銀スプーンを運び終えると、俺はグスタフさんにナイフが作れるか聞いた。


「これだけあれば出来るでしょうが……」


 少し時間がかかるだろうと言われる。


「何しろ燃料から集めるのですから」


 そうか、薪がギリギリの量しかないんだった。


「それと、お恥ずかしい事ですがフイゴが無いんです」


「フイゴって何?」


 俺は隣にいたユリウスに聞く。


吹子ふいごだろう。燃料を効率よく燃やす為に風を送り込む道具だ」


 なるほど、あれだ。

 アコーディオンみたいなジャバラのついた道具だな。


「空気が送り込めればいいんですか?」


「ええ、まあそうですが」


「グスタフさん、ちょっと待ってて!」


 俺は走って部屋を目指した。





「ヒロキ様、これは?」


 俺はダンボールに白い筒を10本ほど入れて、グスタフさんの工房に戻ってきていた。


「これ、俺の世界でボールに——バスケットボールに空気を入れる道具なんだ」


 2人はキョトンとした顔で俺を見返す。


「あ、ええと……使った方が早いか」


 俺は筒の一本を手に取ると、空気の吹き出し口をユリウスの顔に向けた。手動式なので空気入れのポンプの取手を引いて、思い切り押し込んだ。


 吹き出し口から圧縮された空気が一気に吹き出る。ユリウスが何事かとビビって変顔になる。男前が台無しだ。


 空気が吹き終わると最後に彼の長めの前髪がパサリと彼の額に落ちた。


「な、なんだこれは?」


 驚くユリウスを尻目に、俺はグスタフさんに向き直ると、彼に向かって言った


「空気を入れる道具なんです。ただ、手動なのでその点をなんとか改良出来れば——吹子ふいごの代わりになるんじゃないかと思うんです」


「なるほど!いや、手動でもかなりの風の量です。数人で一度に使えば高温にする事ができますよ!」


 やった!

 役に立てそうだ。



 つづく

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