第232話 彼の本職は!


 グスタフさんのところに行くと、彼は二つ返事で引き受けてくれた。


「ぜひ、やらせてください!」


 そう言うと彼は俺を家の外——建屋たてやの南側に連れて行った。


 他の家屋かおくと違い、この面だけ大きな板で塞がれている。どうやら大きな引き戸になっていて、奥に部屋があるらしい。


「外に部屋があるんですか?」


「ええ、久しぶりにここを開きます」


 グスタフさんは嬉しそうだ。

 グッと力を入れると、その戸を横にスライドさせた。


「ええ?ここは……」


 そこには土間どまが広がっていた。

 広さは俺の部屋2つ分くらい。およそ12畳くらいだろうか。


 右手側にかまどのようなものがあり、壁には大きなペンチみたいなものや、これまた大きなハンマーが置いてある。


 中央には鉄製と見えるコンクリートブロックくらいの大きさのH型の台が、き出しの地面に置いてあり、木製の椅子もあった。


 左手側には大きな四角い桶と棚。棚には細々とした物が入っている。


「長いこと火を入れることが無くて、寂しい思いをしておりました」


「グスタフさんってもしかして……?」


 彼ははにかむように笑うと芝居がかったお辞儀をした。


「この村の鍛冶屋でした」




 聞けばこの辺の他の村からも仕事を頼まれるくらいの鍛冶屋だったらしい。主にすきくわ、馬の蹄鉄ていてつ、日用品の修理をしていたという。


「刃物の手入れもしておりました。棚にあるのは砥石です」


 でもなんで鍛冶屋を閉じていたんだろう。


「お恥ずかしい話ですが、黒い霧の為に飢饉に陥った時、我々は糧を得る為に色々なものを売り払ったのです」


 その中には日用品もあったが、多くは農具だったそうだ。最低限の道具を残して、食べ物に変えたという。馬も黒狼に襲われたりしていなくなり、グスタフさんは鋤や鍬を修理する為の鉄板てついたも手放したらしい。


「それでも、ヤットコとつちを手放さなくてよかったです。またこうやって鍛冶場を開けることができました」


 そう言いながら、グスタフさんは棚から白っぽい四角い塊を出して来た。彼の手のひらに収まるくらいのものだ。彼はその塊を二つに分けた。上下に外れる物だったらしく、覗き込むと中には溝とV字型が十個ほど刻まれていた。


「矢尻の型です」


「ヤジリって……これで矢の先を作れるんですか?」


 俺が驚いて聞き返すと、グスタフさんは首を縦に振って少し笑った。


「銀の武器を作りましょう。鋳型はまだあります」





 つづく

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