第224話 この気持ちを伝えたいけれども!

 な、何⁈

 カリンをどうしたいってどういうこと?いきなりボーイズトーク⁈修学旅行の夜かッ⁈



「どどど、どうしたいって?」


 ユリウスの直接的な質問にパニクる。いや、ちょっといろんな想像が——。


「黒い霧がせまって来ているだろう?村人も次々にここを離れている」


 あ、真面目な話?


 頭に上った血が一気に引いていく。

 ふう。


「黒い霧がせまって来ている?」


「毎日見ていると気づきにくいが、山間やまあいの所から徐々にこちらへと流れ出ているように見えるぞ」


 そうだったのか。

 遠くから目に見えて変化があるくらいなら、よほどの霧が生まれているのではないだろうか。


 俺がそういうと、ユリウスも同意した。


「今までにないくらいの黒い霧が——魔物が来るのではないかと思っている」


「マジか…」




 静けさが辺りを支配する。


 村の中から物音一つしない気がした。


 カタン、とユリウスが食器を置く音がやけに響く。


「お前も、私も、村の人々も、騎士団の分隊も皆が力を尽くすだろうが、もしもの事がある」


「……」


「あくまでも仮定の話だが、黒い霧がこの村を呑み込んで滅ぼすような事が起きたら、カリン殿をどうしたいと思っているのだ?」


「それは……」


 俺の言葉を待たずに、ユリウスは畳み掛けるように続けた。


「私はカリン殿を連れて行きたい」


「!!」


 俺はユリウスの目を見た。

 いつになく真剣な眼差しにひるみそうになる。


 もしも彼が他の女子にちょっかい出さない真面目な騎士だったなら。


 もしも俺がこの世界に来たばかりのままの考え方をしている男だったなら。


 俺は何も言えないまま、ユリウスにカリンを取られていただろう。


 でも今の俺はちゃんと言える。言った上で、彼に頼むのだ。




「俺はカリンが好きだ」




 ユリウスは俺から目をらして、小さなため息をついた。俺はそのまま付け足す。


「だけどユリウス、もしも村が滅んだ時は、カリンを頼むよ」


「……何を言うのだ。今、お前は——」


 俺は片手を出してユリウスの言葉を止めた。


「村が黒い霧に呑み込まれる時は、あの丘も俺も多分駄目になると思う」


 あの丘は聖域だが、ここら一帯を黒い霧が覆ったなら、その聖性を保つのは難しいと思うのだ。そして俺の魂をも復元できるあの部屋も恐らく——。


「だから、その時は無理矢理でも彼女を安全な所に連れて行って欲しい」


「承知しかねるな」


 あれ?断られた?


「私はフォリア様の宿るあの丘を黒い霧にけがさせる気は無いからな!」


 ヤバイ。

 泣きそうになる。


「違うぞ、あくまでもフォリア様を守る為だ。お前の為じゃないぞ」


 わかってるってば。

 それでも嬉しいんだよ、俺は。





 つづく

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