第188話 女神様は悲しんでいます!

「フォリア、それだと君の身体が眠るという神殿都市の話はどうなるんだ?」


 俺の質問にフォリアは憂いを帯びた瞳を向けた。ランプの灯りを映して、濡れた瞳に感情が宿る。


 怒りか?

 悲しみか?


『私が独りでハイランダーの元へ戻ったせいで、私の遺言を聞いたのは彼独かれひとりであった。それ故に——』


 フォリアの語尾が震える。


『後から戻った戦士達は、その遺言を偽りのものと決め付けてしまったのだ!』


「そんな——!」


 俺は言葉に詰まった。


『遺言は果たされず、私の身体は遠き街でまつられた。それが今の神殿都市だ。私は想い出の地から引き離され、意識を取り戻したのは仲間が皆亡くなった後であった』


 フォリアは涙を落とした。


 珠のようになって落ちるしずくは座り込む彼女のひざに落ち、消えいく。


 女子の涙に内心おろおろする俺。だけどフォリアは気付かず、言葉を続けた。


『私は、最後の記憶にある場所ではない所で目覚め、心定こころさだかでないままに宙を彷徨さまよった。そのうちに時と場所をも彷徨さまようていた』


 時と場所。


 つまり……フォリアは自分の眼で、自分の遺体がハイランダーの腕から無理矢理に奪われる所を目撃したのか。


 フォリアはうなずいた。


 そしてまた光のしずくが落ちる。


『ヒロキ』


 涙をぬぐおうともせず、フォリアはそのしなやかな手を俺に差し出した。手をとれという事なのだろう。俺は椅子から立ち上がって、フォリアの手をとった。



 その瞬間——。


 触れた所から渦巻く風が俺の身体に入り込んで来た。


(うわ!)


 驚いたのはその後だ。


 俺の目には映画のようなスローモーションの世界が映る。誰かが叫んでいるようだが、音は聞こえなかった。


 鎧を付けた戦士達。

 その中に黒髪の青年が1人。


 わめく彼を取り押さえる戦士達。

 彼が必死で手を伸ばすその向こうには、死してなお白く美しい戦乙女。


 そのぐったりとした身体は2人の戦士に抱えられ、運ばれてゆく。


 ハイランダーは抑えられ、地に膝をついた。


 最後の咆哮——。





(これはフォリアの見た過去の映像なんだ)


 俺がそう考えていると、場面は暗転した。


 暗い。


 夜だ。松明たいまつの灯りが見える。


 よく見ると松明は白い天幕を取り囲むように立てられていた。




 つづく




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