第185話 昔の恋の話です!

 フォリアの話は200年前の人間だった時の事だった。


 幾度いくどもグロスデンゲイルと戦い、蹴散けちらし、北の地に追い込んでいく頃の話だ。


『その頃、ある剣の使い手が仲間に加わった。この辺りには珍しい漆黒の髪を持つ剣士だった』


「黒い髪は珍しいのか?」


『ふふ、今では珍しくは無い。ただその頃は黒髪といえば遙か北の高地に住む者——ハイランダーしか居なかった』


 それで彼は剣士の戦士の皆から『ハイランダー』と呼ばれたそうだ。


『彼は……静かな人であった。口数は少なかったが、知らぬうちに他人に気遣いをしている奴でな…』


 そう、例えばフォリアが弓の弦で指先を傷つけたのに気がついて、軟膏なんこうをくれるとか、薄手の皮手袋を作ってくれるとか…。


 或いは、フォリアが好きなウサギのシチューを多くよそってくれるとか、胡桃くるみ入りのパンをくれるとか…。


 そして、戦いにおいては1人馬を走らせて魔物の中に突撃して蹴散らし、フォリアのそばにあっては魔物の毛一つ彼女に触れさせず…。


『いつの間にか、私は絶大な信頼を彼に寄せていた。あまり多くを語る男ではなかったが、誰よりも強く、そして私を支えてくれた男性であった』


 だが、やはり何処どこにでもやっかむ奴はいたらしい。


 フォリアが心を寄せれば寄せるほど、口に出さないその気持ちに気が付いて邪魔をする者が現れたのだ。


『残念な事に、私と彼の間に立ちふさがったのは戦士団であった』


「えっ?……仲間に妨害されたのか?」


『彼が途中からの団員であったり、珍しい高地人ハイランダーであったせいだろうな。まあ、目をつけられたのだ』


 焼きもちか。


 男達の中に綺麗な女子1人じゃなあ。わからなくも無い。


 1人しかいない女子が誰かと仲良くなれは、それを快く思わない者が現れるのは仕方ないだろう。


 ましてや生え抜きの団員じゃなくて、途中から来た奴に取られるのはショックだと思うぞ。


 それでも他人の恋路を邪魔しちゃうんじゃダメだね。


 いや……。


 みんなフォリアの事が好きだったんだろうな。嫉妬して、邪魔しちゃうくらいに。


『私もあえて彼に近付かぬよう気を付けた。無用ないさかいを生む事は避けたかったのだ』


 なにせ、とフォリアは付け足す。


『なにせ私達はお互いの心の内を確かめ合ってはいなかったからな』


 ええー⁈


「お互い片想い?」


『いや…』とフォリアは顔を赤らめてもじもじする。


 何だよどっち何だよ?



 つづく

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