第158話 伝えられている話です!


『それから、この砦を拠点として黒い霧をめっする為に幾度も出陣して行ったものだ』


少し懐かしむような瞳で、フォリアは続きを語り始めた。




繰り返される戦いに、黒い霧も宿る対象を失っていき、そして見えなくなって行った——。


同時に——。


フォリアもまた、戦いに傷つきその身を大地へとすこととなる。



戦乙女の犠牲はあったものの、人々は黒い霧がほろんだものと思い、ようやく訪れた安寧に身をゆだね始める。



しかし、戦乙女フォリアは知っていた。


黒い霧が負の存在である以上、いずれまた現れるに違いないと。


その来るべき日に向けて、戦乙女はその身をいしずえに神殿を築くよう言い残してこの世を去ったと——。



『——と、云われている』


ずいぶん他人行儀な言い方だが、それが女神信仰の始まりだったのだな。


『そうだな?そこの騎士』


突然指名されたユリウスはパァッと表情を明るくして同意する。


「はい!そしてそののちは神殿に仕える巫女に時折宿り、聖水を施し神殿の炎を浄める。そう聞いております」


しばしフォリアはユリウスの浮かれたような目を見ていたが、


『そうだな、巫女に憑依して場を浄めるのは人々の気を浄め、黒い霧を寄せ付けぬようにする為だ』


と付け加えた。


だが、憧憬の眼差しで自分を見つめる騎士に対して、わずかながら憐憫れんびんの色を見せたのは間違いない。


俺はその違和感に気がついた。


なんだろう?



つづく

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