第150話 これは答えでしょうか?

カリンの振り下ろした手刀チョップは俺の頭のてっぺんには届かず、俺の額にヒットした。


「なに?なんだよ⁈」


俺は頭を押さえながら、カリンの行動にビックリして声を上げた。


「ヒロキはずるいです」


カリンの凛とした叱咤しったに俺は慌てる。

何?何がずるいの?


「本当は気がついているのに、認めたくないだけです」


「だから何が⁈」


「ヒロキは愛されていないわけではないでしょう?」


「…愛されてないよ」


「私は今のお話を全て理解できたわけではありませんけども、少なくともお母様には大切にされています」


「…されてない。されてたら、俺はもっと自由なはずだ。もっといろんなことが出来て、もっとマシな生き方をしてた。もっと人付き合いが上手くなってたはずだ」


父親がもっといろいろ教えてくれてたら?どこかへ行く体験をしていたら?習い事ができていたら、みんなと同じ物を持っていたら、同じ練習会に出ていたら、同じ……。



「ヒロキのいう自由って何ですか?」


「……やりたい事が出来ること」


「何がしたいんですか?」


なんだろう?

あっちの世界では何もなかった。

ただ、ゲームしたりマンガ読んでたり。それがやりたい事かというとやはりそうではない。


「…こっちの世界では、あるんだよ」


あちらには何もないけど、こっちにはあるんだ。


「カリンが思ってる答えじゃないと思うけど、俺はリール村を救いたい」


何故なぜですか?」


何でだろう?

何で助けたいのかな?


「…必要とされているから、かな」




俺の中で答えが出た気がした。




俺は誰かに必要とされたかったんだ。


父親に出て行けと言われて居場所をなくした。母親は俺に謝るばかりで俺は自信をなくした。上手くできなくて部活を辞めた。クラスでもいまいちポジションがわからない。


誰か俺を必要としてくれているのか、俺はこの世に必要な人なのか、何もかも投げ出したくなっていた。


だから、こっちの世界で必要とされた時、俺は動き出すことが出来たんだ。


「俺はみんなを救いたい」


弱々しくってとても救世主らしくないけど、これは俺のいつわらざる気持ちだ。


恐る恐るカリンの顔を見る。


——破顔一笑。


それは冬が近づく世界に開く一輪の花の様だった。


世界が変わる——。



そして、彼女は言った。


「ヒロキはすでに私を救っているのですよ」




つづく

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