第133話 俺には出来ない!

ユリウスは俺の話を聞き終わると、ニヤリとした。


合間見あいまみえるのが楽しみだな」


……そうか、まだ魔物と戦った事が無いからかえって腕がなるらしい。


……。

あ……。





そこで俺ははたと行き当たる。


俺は人の姿をした魔物を倒せるだろうか?




————無理だ。




異形の姿をした狼は、いわゆるモンスターに見えた。それでも直接生き物を死なせた感触はまだこの手に残っている。


人型のモンスター?

ゴブリン、オーク、リザードマン?


いや、これから俺が相対あいたいするのは黒い霧におかされていても『人』だ。


それは出来ない。


「ユ、ユリウスは人を斬った事はあるか?」


少し声が上ずる。

当の本人は「ふふん」と得意げに胸を張る。


「当たり前だ。この手で数多あまたの悪党を成敗して来たものだ」


ほほう。

さすが騎士だ。


「それってさ、やっぱり相手を死なせたりする…のかな?」


「?」


ユリウスがキョトンとする。


ああ、そうだった。

この世界では『死』は近しいものだ。

俺だって2度も死んでいるじゃないか。


町でいさかいがあれば刺されるし、やまいは簡単に治るものじゃないし、お産で命を落とす人だっている。


悪党共は捕まれば罰を受けて、中には処刑される者もいるだろう。




でも俺はそういう世界で生きて来ていない。



「どうした?」


ユリウスに声をかけられてハッとする。カリンも心配そうな顔でこちらを見ていた。


奴には馬鹿にされるだろうが、早めに言っておいた方が良い。


「俺は人を———」




俺の説明を聞いたユリウスは、出会ってから何度目かの呆れ顔をした。


「では、お前はどうやってそいつらを倒すつもりだ」


「わからない」


「わからないって…」


「俺のそういう常識がこの世界で通用しない事はわかってる。少し時間をくれ」


俺がきっぱりと言い切ると、ユリウスは怒っているようなそうでないような複雑な表情をして、俺を指差した。


そして人差し指を俺の胸に突き付けて来て、さらに顔も近づけて俺の目を見る。

(近い近い)


「時間切れの時は腹をくくれよ」


うわ。

やばい。


ふざけて逃げ出すわけに行かない事を改めて認識する。


「ヒロキ」


側にいたカリンの声に振り向く。

彼女は意外にもにっこりと笑っていた。


「私はヒロキがそういう人だと、知っていましたよ」



つづく

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