第94話 男に脱がされたくない!

 図らずも俺はカリンとイケメン騎士の間に飛び出る形になった。


 目が合う。


 緑がかった水色の瞳。

 不審の色がかすめる。


「…どうも」


 俺が挨拶すると、にこやかだった顔が素に戻る。眉をひそめて俺に顔を近づけて来た。


 近い近い近い!


「…君は確か…」


「ええ、この前死んでたヒロキ…です」


 ああっ、敬語が出ちまった!


「本当か?確かに顔はそうだが…」


 騎士はそう言うと、いきなり俺の上着をまくりあげた。


「ぎゃっ⁈」


 いやだー!男に服を脱がされたくない!


「やめろっ、ヘンタイ!」


 抵抗むなしく、俺はシャツまでまくられた。肌がむき出しになる。


「傷が無い」


 そう言うと次に俺のアゴをつかむ。

 痛い痛い痛い!


 俺を押さえつけながら顔をじーっと見つめた後、不意に俺を解放した。


「何すんだよ!」


 制服のシャツを戻しながら、ヤツが見ていたのは俺が刺された場所だというに気づく。確認したいならそう言え。


「双子か?」


「…ちげーよ」


「そうか、三つ子か」


「なんなんだお前ぇ!」


 久しぶりにムカついてキレる俺を、カールとコリンが後ろから羽交はがい締めにする。


「落ち着いてー」


 いつもおとなしいコリンにそう言われては仕方ない。


 俺が気を鎮めている間に、カリンが騎士に説明する。


「なんと!誠に女神様の加護が⁈」


 女子の話は素直に聞くのか。

 ヘンタイ騎士め。


 ヤツは俺に近づいてきて、


深緑騎士グリューネ・ヴァルトのユリウス・シュラット。以後お見知り置きを」


 と名乗った。

 そしてカリンの方を振り返り、「本当に?」と聞いている。


 信じられないのは仕方ないが、信じる基準が『女子の言う事』なのはどういうことか!


「仕方あるまい。死者が生き返る奇蹟など、流石さすがに見たことがない」


「ほほう、フォリアを信じないのか?」


 フォリアの名を口にするとユリウスの目の色が変わった。


「貴様、おそれ多くも女神殿の名を軽々しく口にするとは!」


 しまった。

(フォリアがそう呼んで良いって言ったんだよ?)


「ええと、女神様の加護を信じないのか?」


 慌てて言い直す。


 ユリウスは剣の柄に手をかけたまま、


「女神殿は信じるが、お前は信じない」


 と言う。


 もー、女子の言う事は信じるくせに!




 つづく

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