第84話 新しい服を!

 2人でパンを食べながら、こちらの冬はどのくらい寒いのかとか、いつから雪が降るのかとか話してみた。


「雪は降りますけど、過越の祭の後にたくさん降りますね」


「過越の祭?…ああ、年末にあるって言ってたな」


「楽しいですよ。皆で火を囲んで、普段食べないご馳走を用意して…」


 一年で1番楽しい祭だとカリンは嬉しそうに言う。


 多分クリスマスと大晦日を足したような感じか?


「雪が降るならコートとか居るかな」


「そうですね、あれば助かります」


 身一つで丘に捧げられたカリンは持ち物が本当にない。


「俺、コート一つ持ってるけど…仕立て直しとかって出来る?出来るならカリンにあげるよ」


「ええ、今度見せて下さい」


 高校の指定コートだが、黒のダッフルコートである。ポイントでアイボリー色が使われていて、知らないで見たら私服のコートと思われるだろう。


(ちなみにうちの学校の女子は同じデザインのダッフルコートだが、色は紺とベージュから選択可だ)


「でもまずは新しい服を作る予定です」


 カリンはそう言いながら干してある鮮やかな青色のカーテンを見上げる。


「やっぱり、ちゃんとした布を買わないか?」


 なんだか布地が固そうに思うのだ。

 しかしカリンはにこやかに首を振る。


「いいえ、こんな厚手の布は手に入りませんよ」


 そうかなぁ。


「試しに売りに出してみますか?日曜日はすぐですよ」


「いや、いいよ。他の人もカリンと同じ服ってのも変な気がするし」


「私は上に白のエプロンを付けますよ。あっ、日曜の自由市に行くなら、早めに服を仕立てないと」


 彼女は残っていたパンを押し込むように口に入れる。


 新しい服で行きたいんだな。

(手慣れているからカリンは縫い物が速い。ミシンがあればもっとたくさん縫い物するだろう)


「よし、俺は市場へ持って行くものを用意するか!」


 俺達は元気よく立ち上がった。



 つづく

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