第57話 死体を片付けます!

 謝る俺を見下ろしながら、カリンは続けた。


「もう、あの様な事はなさらないでください」


 わかった。約束する。


 言葉に出していなかったけど、彼女には通じたと思う。


 カリンはそっと…花でも抱く様に俺の肩を抱いた。俺は驚いて身を硬くしたが、その時にはもう彼女の身体は俺から離れていた。


 ほんの一瞬の行動。


 その一瞬に俺達は仲直りと約束をしたのだ——。





「あー、良かった。生きてる」


 俺を見たカールとエレミアが声をそろえて言う。コリンは目を見開いて驚きを示す。カールが馬を操ってここまで帰ってきたらしい。エレミアとコリンは荷台から降りてきた。


「前にも生き返ったって聞いていたけど、実際に目にすると驚くわね」


 傷ひとつない俺をジロジロと見ながら、エレミアは感心した様に言葉を紡ぐ。


「あの後大変だったのよ?人は集まってくるわ、カリンが泣くわ、遺体を持ち帰るっていうから馬を買うわ」


「俺の死体を持ってきたのか?」


 慌てて荷台を見に行くと、白い布がかけられている何かが載せられていた。ところどころに血の染みが付いている。


 さすがに俺も自分の死体を見るのは初めてだ。(前回は黒狼に骨まで食べられたと聞く)


 ゴクリと唾を飲み込むと、白い布をめくる。


「……」


 これ、俺?

 着ているものも見慣れた顔も、確かに俺だが見下ろす俺は一体誰だろう?


 なんて落語のオチみたいなことを言っている場合ではない。血の気の無い真っ白な自分の死に顔を見てると寒気がする。


 布をかけ直すと、俺は自分の死体を包む様にした。


「カール、悪いけど手伝ってくれ」


 二人掛かりで荷台から『荷物』を下ろすと、半ば引きずる様にして丘の上まで運ぶ。


「この布はウチから持っていったシーツだな?」


 カールがうなずく。


 俺の部屋から持ち出した物だから、この布ごと部屋に戻せばいい。


「あとは俺がやるよ」


 とは言ったものの、1人でシーツを引っ張るとズルリと中の俺が転げ出る。


 仕方なく自分で自分の両脇に手を差し込んで引きずる。ようやく全身を部屋に入れると、死体は霧散して跡形もなく消えてしまった。


 なんか証拠隠滅でもしている気分だ。


 部屋の外に出ると、皆んなが待っていてくれた。


 カリンが両手を俺に差し出す。


 そこには俺が預けたスマホがあった。




 つづく





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