第12話 ここは聖域です!

夕刻のパンを配ると、例のごとくゴミを回収して戻る。


見上げた夕方の空は群青色に染まり始めていた。


丘はそう遠くはないが、陽が沈む方向とは別の方から黒さが増している。


「あれは例の黒雲か?」


俺がそう言うとカリンも語気を強めて返事する。


「ええ。早く丘に戻りましょう!」


俺達は走り出した。

ダンボール箱は放り出して行く。


ちょうど俺達が目指す丘とは反対方向から小さな黒い影が数を成してこちらへ向かってくる。


狼達だ!!


俺はカリンの腕をつかんで速度を上げた。

たいして運動もしない俺だけど、カリンよりは速い。


丘の上に駆け上がると同時に狼達は麓についた。


しかしカリンが言ったとおり、丘には近づけないようで、それ以上は近づいて来ない。


それを確認して少しほっとする。


「あの、ヒロキ」


「ん?」


「すみません、腕を…」


俺はカリンの腕をつかんだままだった。慌てて離す。


「ご、ごめん」


感触が手に残っている。細くて柔らかな感触。


って、そんな場合じゃない!


上空は異様な空だった。

黒い雲が渦巻いているのに、俺の部屋を中心とした丘の真上だけ少し鴇色を残した晴れた夕焼けの空がのぞいている。


間違いない。

ここは銀の女神・フォリアの聖域なのだ。向こうはこちらに手出し出来ないようだ。こちらもなすすべがないが、少なくとも安全である。


「ヒロキ、狼達が去って行きます!」


カリンが指差す方を見ると、それまで丘の麓をぐるぐるとうろついていた狼達が元来た方へ走り去るのが見えた。


「良かったな」


「はい」


空が明るさを残しているうちに食事を取ることにする。


「と、言っても同じ菓子パンと水。それからコレ食べてみて」


俺はポテトチップスの袋を広げてカリンに勧めた。


「これは?」


「ジャガイモってこっちにもあるかな?それを薄切りにして油で揚げたものなんだけど」


「はい、ヒロキ。ジャガイモはあります。しかしこの様な調理法は初めてです」


サクッ。

サクサクッ。


「美味しいです!確かにジャガイモですね!」


そうだろう、そうだろう。

俺のイチオシうすしお味だ。


「お菓子ばっかで悪いな」


俺は自分の世界の感覚で言ったのだが、カリンは「とんでもない」と否定した。


「いくつもパンを生み出す奇蹟に感謝しております。この様な甘く柔らかなパンをいただけるなんて、私は幸せです」


あう…。

そんなに感謝されると俺は恥ずかしい。俺のオヤツが奇蹟の食べ物になってしまった。


すっかり日が落ちるとあたりは真っ暗になる。俺は部屋に戻って電灯のスイッチを入れてみた。


つづく

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