第50話 変わり果て

「そんな.....」



愕然と肩を落とす俺の傍に二人はやって来た


「何か分かった? 

 というか...どうなってるのよコイツ.....新種の魔族?」


「いえ、彼から感じる気配の奥底には人間と同じものを感じます。

 今は不思議な邪気に包まれているようですが...」


彼女もすぐ近くで膝をついた、

俺は語りかけた



「アイリス...もしかしたら俺はコイツが何か分かるかもしれません」


視線は目の前の倒れる敵だったものに釘付けで

聞いたリアクションはまるで分からないが、

返答は落ち着いた声色であった


「良ければ話して頂いても...?」


「はい、コイツは.....」


口に出そうとするが、

あまりの事実に言葉が形を持って

喉につっかえるかの様に声がすぐには出なかった。


それほどまでに自分には大きな事柄であった



「.....知り合い、でしょうか?」


尋ねる声はあくまで平静なものであった。

彼女の思いやりに一旦呼吸を整えると告げることが出来た



「友人です.....それも俺がまだ幼い時からの」


息を吞むような驚きが場を静めてから

しばらくして肩に手が置かれた


「気を落とさないで下さい......彼はまだ生きている。

 望まぬ再会であれ、前向きに捉えなければ」


「......そうですね」


小さく頷きながら自分に言い聞かせる。

目の前のことに溜め息をつくだけでは向かい合っていることにはならないんだ、と



「どうにか解放してやりたい...でも、これは一体何の現象なんだ......?」


頼るように視線を仲間に向けるが

当然見当もついている訳がない。


「アタシも魔法使いの家系に生まれたけど......分野が違うかも」


聞かれても困るということか、

仕方のないことだ


「私は...」


アイリスはまじまじと変わり果てた友人・ラッテを見た。

俺には過去に彼が見せた屈託のない笑顔が

宿ることがないかもしれないことを思うと

また目線を移すことは出来ずに俯いた


何か、何かないのか


無学の自分を初めて呪い始めた時には、

横の勇者の行動は関心の外にあった


脳内での解決策の模索は近くの会話を遮断した。


隣で話し合われている内容も行き詰って悩みを深めるだけのもの、

そう決めつけているほどの暗く沈んだ意識を



「ほ、本当にやるんですか?」


「ウィンに同じような現象が現れなかったのは

 これが関係しているのかもしれません。

 私が責任を持ってやります」


覚悟のこもった声が現実に引き戻した。



眼前に広がる、

逆光で凛々しくも映ったのは


剣を高々に掲げる勇者の姿であった

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