第42話 蠟燭の火が揺れる部屋で・4
「そうなるとラスケルでの半狂乱のままに語られる、
ズイを魔王の後継者とした征服の話で毎晩地下は大盛り上がりだった。
それで今度は外向的過ぎて嫌になったのよ、
そもそも危険思想だし」
あの集団の一員でいるのは常識人であればあるほど
辛いことは容易に想像できる
「さっさと黙って出て行ってやったわ。
最悪、ご丁寧に裏切りと捉えて追手が来たとしても
所詮影でコソコソしてる奴らが大挙してくることもないだろうと踏んだし...
それに不思議とすぐ出会える気がしたの、最強な味方に」
「直感でアイリスの弟子になろうと?」
「理由はちゃんとあったわ、それこそ少しラスケルの『力』信仰にも近いけど......
せっかく広い世界で好きに生きるなら、
英雄の仲間として強くなって輝きたいって」
そこら辺の飛躍的な目標が村人身分には分からないが
突き抜けてアメルは生きたいのだな、と感じた
「しっかりした血筋に生まれ、
高級な魔法を学び、
自ら下賤な集団に混じっては、
異質な魔法を学び、
アタシの自信は天井知らずだった。
でもそれも......本当に強い人に出会うまで、だった」
ここにきてアメルの表情は明るくなってきた
「最初あった時は心の底からの驚き、
大きな街の地下に悪のアジトがあることなんて
比べものにならないくらいの。
信じられる? アンタだって思ったでしょ、かの伝説の勇者が
アタシ達と同じくらいの歳の女の子だなんて」
深い同意を首を縦に振ることで示す。
冷静になれば今だって信じ難いことだ
「だとしても、相手は魔王を一夜にして沈めた超人。
自分以外を見下して常人には考えもつかない存在だと思った。
アタシの持ちうる限りの自信は、彼女の前に立つだけで崩落したわ」
今よりも、自分と出会った時よりも
力に溢れていた彼女なら
対面しただけで戦意を喪失させる威圧を放っていたであろうことは
目に浮かぶようだ
「それでも勇者が街に入ってきたことを誰よりも先に強いオーラを感じたアタシは
自分以外にも競争相手がいるように焦って、出会うなり
姉さまへの弟子入りを嘆願した。
目指せるもなら、更なる力と経験を本能が欲していた」
アメルの瞳がひと際、輝く。
「姉さまが口を開くまでの時間は永遠にも感じられた。
向けられる言葉は愚弄か嘲笑か、
どうあっても下げた頭が上がらずに
投げかけられるものは冷淡のものだと覚悟した。
でもあの人は......誰よりも強くて偉そうにして当たり前の人なのに...
優しかった」
彼女は胸で渦巻く感動に
目をそっと閉じた
「承諾してくれたの......とても思いやりのある言葉で...
その後も友人の接するかのように温かく接してくれたあの人に
着いて行こう、そう思った。
そう誓った......はずなのに」
何度目になるかも分からない涙が頬を伝う
「伝説の勇者の力は期間限定......そんな告白に、
何か現実を突きつけられた気がした。
アイリス...あの方に失望した訳でも何でもない。
アタシ自身が現実に向き合え、と言われたように思った。
歳の近い女の子同士だからこそ関わっていくうちに
勝手に自分を投影していた、とても手の届きそうもないあの人に」
見つめることもアメルを苛むようで...
ただ美しい夜景に目を移した。
「美しく、強く、優しい彼女は......アタシの憧れそのものだった。
そんな人の栄華も長くは続かずに終わりを迎えるものだ、と...
そう知った時に悲しくなった。
それで逃げた、憧れから目を逸らして。
変よね......いつか人は死ぬように、避けられないことなんて幾らでもあるのに
目の前でそのことが...確かになっただけで......」
声は震え、力を失っていく。
向上心を持ち続ける彼女だからこそ、
自身の成長はいつまでも続くものと望んだのだろうか
村でひっそりとそれなりに幸せに過ごせれば良い、
そんな考えを持っていた自分は愚かなのだろうか
答えを教えてくれる者などなく、
その部屋に聞こえるのはすすり泣く声と
夜風が吹く音のみだった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます