第27話 姉御

「その子を離しなよ、せっかく帰ってきたってのに


 また外に連れ出されちゃたまんないね」



背の高いボサボサとした赤紫色の髪が特徴的な女が現れた。


いつの間にか後でもつけられていたか



「......じゃあ、聞かせてもらうが


 この集団とアメルはどういう関係があるんだ」



やっと話が出来そうな人物が出て来たので


事情を聞くことにした。


まだ相手から戦意は感じない



「アメルはうちの団・ラスケルのボスである、


 ズイ様に認められた立派な団員さ」



自慢げに語る口調はまるでアメルを誇りに思い、


何より親し気な感じだ。



どうやら無理やり入れられた訳でも無さそうだ



この話の間にもずっと掴んでいる腕を離そうと


アメルは俺の指を解こうとしている。


非力ながらも必死だ



「その子は自分から志願したんだ。


 この団に入る事、


 何よりズイ様の偉大な魔法に魅せられて弟子入りする事をね......」



そうなるとアイリスに弟子入りするために鞍替えをしたのだろうか、


随分とはた迷惑な女だ。


そのズイとかいう人物がどんなか知り得ないが


確かな強さがあることは間違いない。



そしてアイリスも



アメルがそこまで強さに惹かれる理由はなんなのか、


隣で顔を真っ赤にさせて逃げようとする小さな魔法使いには


あまりにも似つかわしくない大望があるのか



「いつにボスと知り合ったのかなんてことは分からないけど、


 アメルは新入りにしてうちの団のアタシらと同じ幹部格になったのさ。


 最初は気に入らなかったねぇ......


 だから冷たく当たったことも何度もあった。


 それでも、この子は実直に魔法の修行をしたし、


 ボスの見込み通りの才能があった。


 淡泊に接したアタシにさえ素直に教えを乞いた、


 その真っすぐとした信念を感じてアタシはその子を認めたんだ」



「......姐さん」



俺から離れようとする力が弱まったと思ったら


アメルもその話を聞いていた。


二人はボスと仰ぐ人物の同じ弟子同士で


深い間柄なのかもしれない



「だからビックリしたね......


 そんな子がアタシたちの手元を離れて、一人で旅に出ることにした


 って言った時は。


 アタシにだけしか言わなかったのか、


 ラスケル全体はアンタの失踪で大騒ぎだったさ」



見張りの二人がアメルに対して


無断で抜け出した裏切り者のような言いようであった訳が分かった。



「でも、結局アメルは戻ってきたんだ。


 何があったのか、どうして抜け出てしまったのか......


 急いて出て行く時のアンタを止めることは出来なかった。


 だからこそ今にゆっくり話を聞こうと思ってきたら......」



今までアメルに言って聞かせるようにしていた目線が


俺にギロリと向く。



「とんだ邪魔者がいた。


 それも広間でのバカ騒ぎじゃ済まないことを起こした


 張本人がいるじゃないか」



そこで初めて押し隠していたかのような殺意が


その女から漂ってきた。



それに危険を感じて掴んでいた腕を放して


逆にアメルを部屋の奥に押しやった



「お前たちが烏合の衆なだけじゃないのか?


 そんなに誇りを持つような集団には思えないな。


 地下でひそひそ身を寄せ合っているのを見る限り、


 ただの悪人の集まりなんじゃないか?」



挑発と共に核心を突いていく。


すると昂る闘志が具現化したように


女の足元に魔法陣が展開される。



杖や魔導書から発現されるものは覚えがあるが、


目と鼻の先にあるのは見たことのないタイプだ



「何とでも言うがいいさ。


 地上で生きる平和で温厚そうに外面だけ人情味の溢れたかのような町人と、


 地下で柄悪くも思い思いに笑って生きているアタシら、


 どちらが本当の悪か」



身体が浮き上がるような大気の震えを感じる。


ただ者ではなさそうだ



「ウィン! お願いだから――」


「分かってる。


 殺しやしないし、出来るだけ怪我のないように倒す」


「違うの! アンタ程度じゃ、姐さんには」



忠告が終わらぬままに事は起きた。


今まで視覚に現れて来た魔法の脅威が


目に見えずして


俺の身体をいともたやすく突き飛ばすような衝撃が襲ってきた



「な、に!?」



何とか踏ん張って見据えた先にあるのは



不敵な笑みを浮かべる、まさしく魔女の姿だった

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る