第26話 乱闘騒ぎ

「撃てー!!」



司令塔の指示で無数の魔法陣から視認出来ないほどの種類の魔法が放たれた。



広間とは言え地下の空間でやるには考えられないほどの爆発が

自分の身に降りかかった、


と思いきや


また意識の無い内に我が身は窮地を脱していた



轟音が響き渡る黒く焦げた入り口付近は既に遠く、


空中に自分はいた。



尋常でない瞬発力と脚力によって一飛びで危機を回避すると


数え切れない人員のど真ん中に降り立った



「や、やれー!」



すぐそばの男の掛け声と共に次々と魔法が撃ち込まれる。


今度は己の判断で素早くかわし続けて


広間の壁伝いを重力を無視して走り回ったり、


近くにある物をでたらめに投げつけてやったりしていると、


相手全員がやたらめったらに攻撃を開始して乱闘になり始めた。



もはや攻撃対象である俺に向けられたものは段々と少なくなっている



敵全体に混乱が蔓延したのか、


魔法の火が吹いているのはまるで明後日の方向だ



それにゴタゴタとした戦場の中で


単純な侵入者との対決は泥沼化していった。



爆発音と何かが壊れる音に満ちた広間の喧噪に



「てめぇ! どこ打ってやがる!!」


「こっちこそお前の下手くそな魔法が当たったんだよ!」



同士討ちが起きている声が聞こえる。



期せずして1対多数の形は


複雑に戦いを発展させていた



もはや誰もが敵を見失い、敵を作っていた。



願ってもない好機に乗じてひっそりと戦火から身を引くと、


奥に幾つもある扉を調べることにした



ある部屋は食糧庫、


ある部屋は宝物庫など


重要な物資が詰まった大事な一室をいともたやすく発見していると、


この集団のずさんさが垣間見える。



あまり、ここの連中が頭の良い者達で構成されているとは思えない



よくこんな貴重な物品を適当に保管しているものだ、


それだけお互いに信頼関係が築かれているというのか?



今の乱闘騒ぎを見ればたかが知れているが。



そうして広間では地響きのするような惨状が起きているのを気にせず、


隈なく部屋全てを探っていると一際大きな部屋が見えた。


それと小部屋も



何かデカい扉の向こうからは嫌な予感がしたので後回しにして


小さな扉を慣れた手つきで慎重に開ける。



すると



「誰!?」



声がしてすぐさま閉めた。


それで事が解決するわけではないが


こちらにも考えがある



追って近付いて来る足音を聞くと


瞬時に飛び上がって天井を掴む。



短時間であれば問題ない、


今自分が知りたいことに時間は掛からない



扉が開いた。


現われた人物は



アメルだった



キョロキョロと訪ね主を探している。


間違いない



ほんの少し聞こえた声からしてまさか、とは思っていたが


やはりそうだった。



そうと分かると遠慮なく彼女の前に着地する



「わっ!? ......ってアンタは」


「お供2号が迎えに来てやったぞ、さあ」



細い腕を鷲掴みにして連れ出そうとすると


か弱い抵抗をしてきた。



「ま、待ってよ! アタシはもう帰れない!」


「何を言ってるんだ? 詳しい事情は後で聞いてやるから、


 こんな所さっさと出るぞ」



そう言っても必死に振りほどこうとしてくるので、


誘拐犯のような気持ちになりながら


強引にでも抱きかかえようとすると、



「待ちな」



一人の女の声に俺とアメルの小競り合いが止まった

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