第168話 荒城14
遠征一日目の夜、桜は全ての装備を外し「奴ら」の体液を拭っていく。
一華も八城も余計な恥ずかしさとは無縁なのか、半裸に近い格好で自分たちの装備品を整えていた。
「隊長聞いてもいいですか?」
「ん?なんだ?」
桜は一日目にして、殆ど心が折れかけていた。と言うのも……
「私、何で此処にいるんでしょうか……」
「何でって遠征するんだろ?散歩なんだろ?」
「うっ……それは言葉のアヤって言うかぁ〜だってぇ……私今ぁ足手まといじゃないですかぁ……」
「あら〜自覚があるのね〜偉いじゃない〜素敵ね〜」
一華はニッコリ笑顔で毒を吐くが、桜は言い返す事も出来ない。
むしろもっと肩身が狭く、桜が装備の整備をしているのすら、烏滸がましい気がして来る。
それもその筈だった。
野火止一華に対し桜はアレだけの啖呵を切っておいて、戦闘において桜が貢献する様な事はなく、あまつさえ此処までの道のりで何度となく野火止一華に助けられてしまったのだから、桜としては正直この場所に居場所を見つけられないでいた。
「あ〜桜……そりゃ最初から俺達のペースに付いて来れると思ってないから大丈夫だ」
「それって、隊長は私がお荷物だって分かってて、連れて来たってことですかぁ……」
「お荷物というか〜大荷物ね〜このペースなら〜荷を取って〜ただのモツになる日も近いわね〜」
「隊長……私モツになっちゃうんですかぁ……いやですぅ出荷されちゃいますよぅ……」
言動から桜のメンタルが大分やられているらしい事だけは伝わってくる。
「落ち着け、お前はモツにはならない。お前はモツである前に馬鹿だから。馬鹿はそれ以上にも以下にもなれないから、大丈夫だから」
「そうですよぅ……どうせ私は馬鹿なんですぅ……何で馬鹿な私を、こんな所に連れて来たんですかぁ……」
膝を抱えて此方に背を向ける桜に、こんな時どうしていただろうと思い返し、その殆どを紬と時雨任せにしていた事を思い出す。
「……あ〜桜。お前は……そう!お前はいい方の馬鹿だから!皆に必要な馬鹿なんだって!だから、その……元気だせって?な?」
「足を引っ張るお馬鹿さんは〜必要ないけれどね〜」
桜は八城の発した必要という言葉にピクッと反応したが、一華の言葉によって座っていた状態から、床に横たわってしまった。
「人が慰めてる時に余計な事言うのやめてくんない?ウチの隊員は繊細なの。お前みたいにガサツに生きてないの!」
「でも〜じ!じ!つ!じゃないの〜本当の事よ〜可哀想だけれど〜」
「お前のそういう所!そういうところが嫌われるんだろうが!それが事実だって、言って良い事と悪いことがあるんだよ!」
「あら〜?そうかしら〜?事実は事実のまま知りたい人も居ると思うのよね〜それに本人の為になるわ〜私って〜これでも世のため人の為を〜心情にして生きているのよね〜」
「どの口が言うんだよ!そんなんだから、お前は誰とも上手くやれないんだろうが!」
「事実を嫌う方がおかしいわよ〜そんな事実も受け入れられないなら〜自分に見合った場所で踞っていればいいんだわ〜あら!そうそう!丁度この桜ちゃんみたいにね〜」
「隊長、私この一華って人、嫌いです……」
桜はこちらに振り返る勇気はないが、それでも言いたい事は言うらしい。
「好きな奴の方が稀だからな、こいつの人格は、人に嫌われる様に出来てんだよ」
「失礼ね〜皆の人格が〜私を嫌う様にできてるのよ〜」
八城が何を言おうと、ああ言えばこう言うのだからきりが無い。
そもそも八城は一度として口喧嘩で一華に勝った試しがないのだから始末に負えないのだ。
「ああもういいよ、お前ら!寝ろ!明日もどうせ早いんだ!無駄話は終わり!」
そう乱暴に締め括り、八城は付けていた蝋燭を消し辺りは月明かりだけが、照らしていた。
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