第35話 89作戦2

「殺す」

八城はその一言と同時に八城は切迫する。

振り下ろされるブレードを見て、ブレードの面に柄を当てブレードを弾き、ブレードの切り返しが来る前に八城は一刀を大食の姉に叩き込んだ。

だが表面を薄く切り裂くのが関の山だ。

だがそれでもいい。

左から来るブレードをしゃがみその狭間に背面に刃を突き立てる。

通らない。

だがそれでも八城は全ての力を使い無理矢理に押し込んだ。

メキメキと音を立て化け物の身体に入り込む刃が何より心地がいい。

だが、大食の姉はそれを嫌う様に身体を大きく回転させ腕のブレードで八城の刃を弾く。

至近距離の切り合いでは分が悪い。

そう感じた大食の姉は距離を取ろうと跳躍する。

そうはさせまいと八城は突き刺さしていた刃を引き抜き、その場所に拳銃装填数、全十発を浴びせ掛けた。

だがその程度では、大食の姉の跳躍は止まらない。

跳躍し、再度の接近。

八城は一本目のブレードを紙一重で躱し正面の腹に刃を突き立てた。

だがこれも入らない。

表面の薄皮をほんの少し削るだけだ。

だが黙ってやられてくれる大食の姉ではない。

八城は、迫りくるもう一本の刃を受け止めようとして…

出来なかった。

八城は隙を狙うばかりに気を取られ過ぎた。

防御が疎かになっていた。

片腕では抑えきれない威力の横薙ぎ。

八城は堪らず突き刺した刀を放棄。

両腕で刀を持ち替えその横凪ぎの一撃を何とか凌ぎきった。

だが凌ぎきったその刀は半ばほどの所に、深い切り込みが入っている。

柄に近い部分で受けたのが幸いした。

でなければ刀ごと断ち切られていた。

八城はまじまじと見る暇も無くその刀を放り投げ、傍らにある隊員の遺体から新たな刀を鞘から引き抜く。

接近し抜刀。

ブレードで受け止められ。切り返しが来る。

刀の背で受けると、凄まじい火花が散る。

また、一刀。

これも、入らない。

振り下ろしを躱し二刀目

これも、入らない。

切れない。

その間も二枚のブレードが八城の命を絶とうと迫り来る。

躱し。

受け流し。

受け止め。

その度に遺体から新たな刀を拾い上げる。

それを繰り返す内に、ある一つの事実に気付いた。

強くなっている。

それは八城が感じた危険信号。

隊員の顔がよぎる、見覚えのある刀捌き。

鬼神薬を飲んでいるにも関わらず、それはありありと頭の中を駆け巡った。

上段からの一刀。

男の顔が浮ぶ。

二段突き。

これは女の顔だ。

真っ直ぐな横薙ぎ。

これはまだ少年だった。

地面を削るような足さばき。

無類の酒好きの男。

八番隊の面々の顔が、大食の姉の使う技から見えてくる。

ふざけるな。

八城の心が叫ぶ

お前がその技を使うな。

お前が…

お前なんかが…

八番隊を持ってんじゃねえ!

「クソ!野郎がアァァああ!」

八城が吠えた。

そして最も自分が得意とする抜刀で仕留めようとして、顔を顰める。

それは大食の姉が今しがた学習した最強の一刀。

「八城君!やめて!」

紬は遠くのビルの屋上で叫ぶが距離は遠く、地面に転がったインカムからでは、紬の叫び声は八城には届かない。

八城が見えているのは目の前の災厄の権化の姿だけだ。

八城は刀を納刀腰だめに構える。

そして大食の姉もその見よう見まねの、抜刀の構え。

ビルの屋上から狙撃をしていた紬はドラグノフを構え直す。

「させない!殺させないから!」

紬は照準を八城の前に立つ禍々しい一体に向ける。

撃てばこちらの存在に気付かれるかもしれない。

「それでも!」

紬がそれを口に出した瞬間。

二つの刃の煌めきが、衝突する。

八城は腕の根元から切り落とす勢いで振り抜いたつもりだった。

だが八城の刀は根元から断ち切られていた。

大食の姉からの煌めく剣先。

もう片方のブレードがガラ空きの八城の命を刈り取ろうと怪しく光る。

だがそれは立て続けに降り注いだ銃弾が大食の姉の動きを止めた。

「させない!させない!させない!これ以上は奪わせない!」

紬は辺りに薬莢をバラまきながら、震える手を無理矢理に押さえつけ引き金を引く。

スコープ越しに禍々しい異形と目が合った。

それでも、紬は引き金を引く。

弾がなくなれば荒々しい手つきでカートリッジを入れ替え。

撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ。

八城は気を取られている隙に新たな刀と拳銃を拾い上げる

八城は即座に後ろに回り込む。

反応されるがそれでも構わない。

その隙は八城が埋める。

狙うのは背面。

突き立てた刃の後。ひび割れる隙間がある一点。

もう一度痛烈な切り結び。

それで良い。

大食の姉と八城の動きが止まった刹那、流星の降り注ぐ方向に大食の姉が背面を向ける。

八城は鬼神薬の効果が切れ掛かっていた。

だから紬を信じた。

紬なら見る筈だ。

狙うべき一点が。

紬は狙いを定め引き金を引く。

パスッという空気の抜けるような鈍い音と共に、大食の姉の上体が大きく揺らぐ。

それに伴い八城と切り結んでいたブレードの力が抜けいく。

八城はそのブレードを刀で払いのけさらに背面へ。

今しがた紬が刺し貫いた場所に、もう一度刃を突き立てる。

八城は大食の姉が暴れるのを足で抑え、先ほど拾い上げた拳銃の残弾を、その一点に浴びせ掛けた。

八城は大食の姉が動き出す前に距離を取る。

大食の姉はゆらりと何事も無かったかの様に動きだす。

ケタケタと特徴的な鳴き声を発しながら、突き刺さったままになっている刃を日本のブレードを器用に使い自ら引き抜いた。

八城は驚愕していた。

みるみるうちに傷口が治っていく。

全ての攻防が無駄だと嘲笑うように大食の姉はケタケタと笑う。

そして数秒と経つ事無く、大食の姉に付けた傷口は元の堅い装甲で覆われた状態に戻っていく。

「クソ……化物は化物だな」

八城の身体が熱く息が上がる。

空気を求めるように八城は大きく息を吸込んだ。

そしてまたもう一つ

丸薬噛み潰し飲み下す。

今度は本当に全てが消えた。

音も色も匂いも味も刀の重さすら消えた。

そして全ての感覚が戻った時には全てが終わっていた。

奴らの屍の山。ツインズは何処かに消えていた。

作戦前存命人数、八番隊全隊員。一五名。

紬は十人の隊員を撃ち。

俺は二人の隊員を斬り殺した。

八番隊残存人数3名

これが89作戦の全容だ。




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