第28話 凪3

明くる日

八城は八番隊の全員を連れて、柏木の元を訪れていた。

「申請書だ。ねじ込んでくれ」

「行くのかい?」

「じゃなきゃ武器申請はしないだろ。」

「分かった。ちなみにだが十七番は一番街区に向かっているよ?」

何故か柏木は申請書を確認しながらそんな事を言ってきた。

そして、それを聞き逃さない人物が一人。

「八城君なんでここで初芽の話が出てくるの?」

隣に居た紬が、何で?ねえ何で?と八城の袖を、痛い位引っ張ってくる。

「何でだろう。分かんない」

「なんだ、八城は十七番と、出来ているとばかり思っていたのだけれど、気のせいかい?」

その柏木議長の一言で三人がざわめき出す。

「隊長!初芽さんとそんな仲だったんですか!」

「聞いてない。説明を!」

「違う!ただのおっさんの、要らん詮索だ!真に受けないの!」

八城は叫ぶが誰も耳を貸さない。

「だが、あんなに庇っていたじゃないか?他の隊長に刃まで向けて?」

柏木は面白半分と言った様子で三人の好奇心に燃料を投下していく。

「八城君、他の隊長に刃を向けた?聞いてない」

「おいおい!八城てめえ!あの時は私の事は止めたくせに、自分ではやっちまったのかよ!」

「やってません!それに、お前は本気で殺そうとしただろうが!」

ギリギリであったのは事実だが八城は殺してはいない。

「隊長。やって良い事と悪い事が、世の中にはあるんですよ」

桜が子供を嗜める様に八城の肩を叩く。

「お前に言われると無性に腹が立つな!」

八城が桜に食ってかかる。

「だが八城、本当にあれはどういう事なんだい?ああいう事が続くと私も君をを庇いきれないよ?」

半泣きの桜の胸ぐらを掴み上げる八城に、柏木は親心のような忠言を送る。

「そう言えばあんたに言ってなかったか。先の遠征で十七番……初芽に雪光を使った。」

八城は柏木に新規ルート探査の際偶然居合わせた十七番の、事のあらましを説明する。

「成る程、それを聞いて得心がいった。だから斬り掛かったのか。確かに、それは向こうの失言だ」

柏木には雪光の能力。そして人体に治療目的で使った場合の副作用を知らせている。

「どういう事?」

紬が八城と柏木の間でだけ、納得しているのが気に食わないと、説明を求める。

「君達は八番の持つ「雪」の能力について知っているね。」

柏木は三人を順繰り見て、理解の程を確認する。

「十七番。彼女は会議の際、八番と男女関係を疑われてね、寿退社と言っていたかな?それを何処かの隊長の男が十七番に対して発言した。だから八城はその男を殺し掛けたんだよ」

本当にざっくりとした説明ではあるが間違ってはいない。

「殺してよし」

「最低です」

「なんだよ!そいつまだ死んでないなら、私が殺してやる」

八番隊は血気盛んで、本当に頼もしい限りだ。

「柏木!そんな事はどうでもいいんだよ。それでその申請書は通るのか?」

柏木は一通り目を通して。

「実はもう申請書は通してあるんだよ」

部屋の隅になる木箱の蓋を開けると。

申請書よりも多くの武装が詰め込まれていた。

「多分こんな事になるだろうと思ってね。無駄にならなくて良かったよ」

そんな事を言う柏木を無視して紬はその箱の中身を持ち上げた。

「凄い」

紬はいつも通りドラグノフ、そして拳銃を二丁。

「おぉ!こりゃすげえな。こりゃなんだ?おいおい!散弾銃まであるじゃねぇか!!」

「時雨君は好みが分からなかったからね、色々と倉庫から引きずり出したのだけれど」

「上々だ!気に入ったぜ!」

時雨は意気揚々と、刀それからショートバレルのショットガンを箱の中から取り出す。

「時雨君それは、かなり扱いづらいと思うのだけれど大丈夫かい?」

「私はあんまり銃が得意じゃないんでね。それに銃と男は弾はいっぱい出た方はいいだろう?」

自信満々に言う時雨の下品な言葉に、紬はうんうんと何が分かったのか頷いて見せる。

「じゃあ私は……これで」

桜はいつも通りの刀。そしてもう一本。小太刀を箱の中から選ぶ。

俺はいつも通り、隊長支給の拳銃を腰に、一本の刀を左に差す。そして雪光を右に。

「悪いな、いつも。」

これで準備は整った。

柏木は小さく微笑み部屋から八番隊を送り出してくれた。

柏木は八番隊全員が、部屋から出て行く背中を見届ける。

四年前より、幾分か白くなった頭は柏木の苦悩の日々を顕著に物語っていた。

「本当にすまないね」

その悲しい独白だけが議長室に響き渡る。


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