第67話


 クリスマスの次の日、高志は朝起きてふとスマホの画面を見た。

 紗弥からの連絡は無かった。

 変わりに優一からメッセージが来ていた。


【少しは頭が冷えたか?】


「……十分冷えたよ……」


 高志は優一のメッセージに対してそんな事を呟き、ベッドから立ち上がってカーテンを開けた。


「雪か……」


 外は雪が降っていた。

 高志は服を着替え、顔を洗い、朝早くから外に出て行く。

 行く場所は決まっていた。

 高志は紗弥の家の前に立っていた。

 緊張しながら、インターホンを押し、高志は誰かが出てくるのを待った。

 しかし、誰も出て来なかった。


「あれ?」


 おかしい、そう思った高志は家の様子が少しおかしいことに気がついた。

 いつもなら紗弥の母親が朝食の準備をしているはずなのに、家からは物音一つ聞こえない。

 よく見ると家に車も無かった。


「もしかして出かけたのか?」


 高志はそう思い、もう一度紗弥に連絡を取ろうと電話を掛けてみる。

 しかし、紗弥に電話は繋がらなかった。


「紗弥……」


 早く合って謝罪をしたい。

 そう高志が思っていると、高志の直ぐ後ろで車が停車した。

 高志はその車を見て、ドキッとした。

 その理由は、その車が瑞稀の家の車だったからだ。


「八重様」


 車から下りてきたのは伊吹だった。

 顔には絆創膏や包帯を巻いており、少し見ていて痛々しかった。


「旦那様がお会いしたいと申しております」


「……昨日の事だろ……」


「はい」


「……こっちもなんとかしなくちゃいけないよな……」


 高志はそう言って、車に乗り込んだ。

 今回はあの馬鹿親に一言言ってやろうと高志はそう思っていた。

 車が出発して20分ほどで、瑞稀の家に到着した。

 瑞稀はどうしているだろうか?

 高志はそんな事を考えながら、伊吹の後に続いて屋敷の中に入っていく。


「………お嬢様に昨日はお怒りを受けました……」


「はい?」


 歩きながら急に伊吹は話し始めた。


「なぜ、八重様のような良い方を脅したのかと、今までに無い剣幕でお嬢様私を叱りました」


「………」


「そんな事をされて私が喜ぶと思ったのかと、一体何年一緒にいるのかと……涙を流しながら私を責めました」


「……そうですか」


 言われて当たり前だと俺は思った。

 しかし、それでも高志は瑞稀に合って謝りたいと思っていた。

 理由はどうであれ、高志が瑞稀を騙したことに変わりは無い。

 

「……君の友人は……強かった」


「え?」


「真っ直ぐで曇りの無い、一直線な目をしていた……良い友人だな……」


 優一の事だと、高志は直ぐに分かった。

 

「こちらのお部屋です」


 そう言われて通された部屋は、いままで入った事の無い部屋だった。

 俺は部屋の扉を開け中に入った。

 

「あ……」


 部屋に入った瞬間、高志は目を大きく見開いた。

 そこには瑞稀が居た。

 目を赤く腫らし、つかれたような表情で俺を見ていた。

 その隣には、瑞稀の父親が立っていた。


「八重様……」


「瑞稀……ごめん」


 高志は瑞稀を見た瞬間、思わず謝ってしまった。

 そんな高志に瑞稀は笑顔を浮かべて言う。


「いえ……謝るのはこちらの方です……大変もうし訳ございませんでした……」


 瑞稀はそう言って高志に頭を下げる。

 そんな瑞稀に高志は心を痛めた。


「……君には……すまないことをしたと……思っているよ」


 次に話し始めたのは瑞稀の父親だった。


「瑞稀にすべてがバレ……私はもうダメだと諦めたよ……」


 瑞稀の父親は話しながら、机の上の写真を手に取る。


「私は……愛したはずの女性に何もしてやれなかった……だから……瑞稀には……せめて瑞稀には……死ぬ前に……幸せになって欲しかった……だが……私が思う幸せと……瑞稀が思う幸せは……違ったようだ」


 

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