第56話
*
「あの日の借り……今更だけど返すぜ……」
「何一人でブツブツ言ってるんだ?」
「ん? あぁ……ちょっとな」
繁村と土井は屋敷の中をこそこそしながら歩き回っていた。
高志の言っていた瑞稀と言う女の子を探しているのだが、どの部屋にも居ない。
「おかしいなぁ……」
「まぁ、これだけ広いんだし、そう簡単には見つからないだろ」
「まぁ、それもそうか……」
そんな事を話しながら、土井と繁村は廊下を歩く。
そんな二人が廊下の角に差し掛かったところだった。
「あっ」
「おっと……すみません」
「いえ、こちらこそ……」
繁村は曲がり角で女の子とぶつかってしまった。
「ん? あれ? えっと……」
思わず謝ってしまった女の子は、繁村と土井の顔を見てハッとする。
「あ……まずい……」
繁村は女の子の顔を見るなり、その場から走り出した。
「あ、貴方達誰ですか!?」
「バレた!! 逃げるぞ土井!!」
「分かってる!!」
繁村が走り出したタイミングと同じタイミングで、土井も繁村と共に走り出していた。
しかし、少し走ったところで土井はあることに気がついた。
「なぁ、繁村」
「なんだ! 今はとにかく逃げることに……」
「いや、そうじゃなくて、あの子が瑞稀ちゃんじゃないか?」
「え?」
「いや、だって高志から聞いてた特徴と一致するぞ?」
「マジか! じゃあ戻るぞ!」
「決断早いなぁ……」
繁村は土井から話しを聞き、直ぐさま先程出会った女の子の元に戻り始めた。
*
高志は走って行った。
屋敷を抜け出す為に中庭に出て塀を昇り、寒い夜道を一生懸命に走っていた。
「紗弥……」
何を言っても許してなんて貰えないかもしれない。
それでも高志は、紗弥の元に行かなければいけない、そう思っていた。
だから、走っていた。
土井と繁村から話しは聞いていた。
紗弥は今、芹那の家に居ると。
高志は夢中で走っていた。
今まで我慢していた感情をむき出しにして、夢中で走っていた。
本当はどうすれば良いかなんて、高志には分からなかった。
それでも、この結果が間違いだったとしても、高志は紗弥の元に行く事を選んだ。
「はぁ……はぁ……」
高志は芹那の家の前に到着していた。
スマホを取り出し、高志は紗弥に電話を掛ける。
『もしもし?』
「え……あ……紗弥? じゃないよな?」
『はい、秋村です。今、先輩を紗弥先輩と話させたくありません』
「な……あぁ……そうだよな……当たり前だよな……」
高志は芹那の言葉を聞き、自分が今まで紗弥にしてきた事を思い出す。
あそこまでして、今更何を話すというのだろうか?
自分の声を聞くのも、紗弥は嫌なんだろうと高志は思う。
「じゃあ……伝言だけ……頼んでも良いか?」
『なんでですか?』
「それくらいは頼むよ……ごめんって一言だけ……言って欲しいだけだよ」
『……私がそれを伝えると思いますか? 私は紗弥さんの味方ですから』
「……頼む………」
『………はぁ……面倒ですし、紗弥さんも一発八重さんの事を殴りたいらしいですし……今から玄関に行くそうです』
「え……」
芹那はそう言って電話を切った。
電話が切れて少しすると、芹那の家から誰かが出てきた。
「……紗弥……」
「……」
出て来たのは高志が今一番会いたかった紗弥だった。
しかし、いざ本人を目の前にしてみると一体何を言えば良いのか分からなくる。
何を言っても言い訳になってしまうし、今更何を話せば良いのか高志は分からなくなっていた。
「紗弥……ごめん」
最初に出た言葉は謝罪の言葉だった。
高志は紗弥に向かって頭を下げ、一番言いたかった言葉を口にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます