第43話


 高志は公園のベンチで抜け殻のようになっていた。

 ぼーっと遠くを見つめ、その瞳からは生気を感じられなかった。


「はぁ……」


 吐く息も白くなり、外はますます寒くなってきていた。

 そんな高志の元に誰かが歩いて近づいてくる。


「よぉ」


「……ん……なんだ優いtぶふっ!!」


 対面するなり優一は高志を殴り飛ばした。 

「いってぇ……いきなりなんだよ……」


 高志がそう言うと、優一は高志の胸ぐらを掴んで話し始める。


「お前、一体何があった?」


「……なんもねーよ……良いから離せ」


「なんで宮岡を振った!」


「関係ねーだろ!!」


 高志は優一に言われて大声を上げる。

 そんなのは高志自身が一番自分に聞きたい質問だった。

 だからだろうか、それとも何もかもを失ったからだろうか、高志はイライラしていた。

 そして、そのイライラを優一にぶつけていた。


「お前……散々相談に乗ってやったんだ……俺には聞く権利があるだろうが!」


「うっ! なんでお前がイライラしてるんだよ!!」


「ぐっ!」


 高志は優一に殴り返し、優一から距離を取る。

 分かっていた。

 何故優一がこんなにも怒っているのか、そしてなぜ殴ってくるのかも……すべてわかっていた。


「高志……言え……何があった」


「……何もねーよ……」


「じゃあなんで宮岡を振った! お前らしくもない!」


「俺だって人間だ! 心変わりくらいする!」


 高志は嘘をつき続けた。

 優一の質問に対してすべて嘘で返した。

 本当はこんな事を言いたい訳ではない、しかし言えば優一や紗弥がどうなるか分からない。

 だから高志は嘘をつき続ける。


「……そうか……お前がその気ならそれでいい……フン!!」


「うぐっ!」


「お前が正直に言うまで……俺はお前を許さない!」


「お前にぐっ! 許される…がっ!! 理由なんてない……」


「そうか……なら!」


「うぐっ!! うっ……」


 優一の重たい一撃が高志の腹部に重くのしかかる。

 思わず膝をついく高志。

 優一はそんな高志を見下ろす。


「はぁ……はぁ……別にお前らが別れようがどうなろうが……俺には関係無い……でもなぁ……お前が俺に嘘をつき続ける限り……一人で抱え込む限り……俺はお前を許さない!」


「……嘘なんてついてねーよ……」


「そうかよ……お前……昔俺になんて言った?」


「………」


「答えろ!!」


 高志は言われながら、昔の事を思い出す。

 優一と知り合って間もない頃だった。

 一人でなんでも解決しようとする優一に、高志はこう言った。


『一人で格好つけるな! 友達を……俺を頼れ!!』


 中学時代、一人で20人の不良を相手にしようとしていた優一に、高志は駆けつけてそう言った。

 今の高志と優一に立場はそのときと逆だった。


「ムカつくんだよ! 人に偉そうな事言ってたくせに……自分はどうだ!」


「………」


「何があった……俺じゃあ力不足か!?」


 高志は素直に優一の気持ちが嬉しかった。

 自分を本気で心配してくれる友人が居る。

 それが嬉しかった。

 だからこそ……高志は優一も紗弥も巻き込みたく無かった。


「何もねーよ……話しは終わりだ……」


「待て!」


「離せよ! 忙しいんだ」


 高志はそう言って優一の前から立ち去った。 優一は追っては来なかった。

 優一から殴られて頬が酷く痛かった。

 高志は内心優一に感謝していた。

 心配してくれて、本気で叱ってくれて……高志は嬉しかった。

 

「……ありがとう……優一」


 高志は小声でそう言いながら、スマホを操作し自分のメインのアカウントの恋人が居る証である、ハートマークを紗弥から外した。


「さよなら……」


 人生で最悪のクリスマスだと思いながら、高志は怪我をした顔で街中に消えて行った。

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