第43話
*
高志は公園のベンチで抜け殻のようになっていた。
ぼーっと遠くを見つめ、その瞳からは生気を感じられなかった。
「はぁ……」
吐く息も白くなり、外はますます寒くなってきていた。
そんな高志の元に誰かが歩いて近づいてくる。
「よぉ」
「……ん……なんだ優いtぶふっ!!」
対面するなり優一は高志を殴り飛ばした。
「いってぇ……いきなりなんだよ……」
高志がそう言うと、優一は高志の胸ぐらを掴んで話し始める。
「お前、一体何があった?」
「……なんもねーよ……良いから離せ」
「なんで宮岡を振った!」
「関係ねーだろ!!」
高志は優一に言われて大声を上げる。
そんなのは高志自身が一番自分に聞きたい質問だった。
だからだろうか、それとも何もかもを失ったからだろうか、高志はイライラしていた。
そして、そのイライラを優一にぶつけていた。
「お前……散々相談に乗ってやったんだ……俺には聞く権利があるだろうが!」
「うっ! なんでお前がイライラしてるんだよ!!」
「ぐっ!」
高志は優一に殴り返し、優一から距離を取る。
分かっていた。
何故優一がこんなにも怒っているのか、そしてなぜ殴ってくるのかも……すべてわかっていた。
「高志……言え……何があった」
「……何もねーよ……」
「じゃあなんで宮岡を振った! お前らしくもない!」
「俺だって人間だ! 心変わりくらいする!」
高志は嘘をつき続けた。
優一の質問に対してすべて嘘で返した。
本当はこんな事を言いたい訳ではない、しかし言えば優一や紗弥がどうなるか分からない。
だから高志は嘘をつき続ける。
「……そうか……お前がその気ならそれでいい……フン!!」
「うぐっ!」
「お前が正直に言うまで……俺はお前を許さない!」
「お前にぐっ! 許される…がっ!! 理由なんてない……」
「そうか……なら!」
「うぐっ!! うっ……」
優一の重たい一撃が高志の腹部に重くのしかかる。
思わず膝をついく高志。
優一はそんな高志を見下ろす。
「はぁ……はぁ……別にお前らが別れようがどうなろうが……俺には関係無い……でもなぁ……お前が俺に嘘をつき続ける限り……一人で抱え込む限り……俺はお前を許さない!」
「……嘘なんてついてねーよ……」
「そうかよ……お前……昔俺になんて言った?」
「………」
「答えろ!!」
高志は言われながら、昔の事を思い出す。
優一と知り合って間もない頃だった。
一人でなんでも解決しようとする優一に、高志はこう言った。
『一人で格好つけるな! 友達を……俺を頼れ!!』
中学時代、一人で20人の不良を相手にしようとしていた優一に、高志は駆けつけてそう言った。
今の高志と優一に立場はそのときと逆だった。
「ムカつくんだよ! 人に偉そうな事言ってたくせに……自分はどうだ!」
「………」
「何があった……俺じゃあ力不足か!?」
高志は素直に優一の気持ちが嬉しかった。
自分を本気で心配してくれる友人が居る。
それが嬉しかった。
だからこそ……高志は優一も紗弥も巻き込みたく無かった。
「何もねーよ……話しは終わりだ……」
「待て!」
「離せよ! 忙しいんだ」
高志はそう言って優一の前から立ち去った。 優一は追っては来なかった。
優一から殴られて頬が酷く痛かった。
高志は内心優一に感謝していた。
心配してくれて、本気で叱ってくれて……高志は嬉しかった。
「……ありがとう……優一」
高志は小声でそう言いながら、スマホを操作し自分のメインのアカウントの恋人が居る証である、ハートマークを紗弥から外した。
「さよなら……」
人生で最悪のクリスマスだと思いながら、高志は怪我をした顔で街中に消えて行った。
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