第41話


 

「よし、ここだな」


「じゃあ私はこうしてチェックメイトです」


「え!? あ……ま、マジか……」


「どうしますか?」


「ま、待って! 今の無し!」


「うふふ、ダメです」


 高志は瑞稀とチェスをしていた。

 外は雪が降り始め、時間も遅く鳴りつつある。

 高志はこれで5戦5敗と瑞稀にチェスで全敗していた。

 

「瑞稀はボードゲーム強いんだな」


「得意なんです、でも父には一度も勝てた試しがありません」


 高志が今居る部屋には世界各国のボードゲームが保管されていた。

 なんでも瑞稀の父親が集めていた物らしく、瑞稀はこの部屋のゲームで良く父親と勝負をするらしい。


「でも、こうして父や使用人の方以外の方とゲームをしたのは始めてです」


「そうなのか? 悪いな、俺はあんまり頭を使うゲームは得意じゃなくて……」


「いえ、八重さんの表情を見るのが楽しいので」


「それってどう言う意味だよ」


「うふふ、教えません」


「おいおい、馬鹿にしてないか?」


「いえ、そんなことありませんよ」


 そんな話しをしている時、高志はふと壁の時計を見た。


「瑞稀……悪いな、少し出かけてくるよ」


「あ、そうでしたね……あの……また戻ってくるんすよね?」


「あ……あぁ、直ぐに戻ってくるさ」


 高志はそう言って席を立ち上がり、部屋のドアに向かう。


「それじゃ、ちょっと待っててくれ」


「はい、それではお気を付けて」


 笑顔の瑞稀に見送られ、高志は部屋を後にする。

 部屋を出ると伊吹が廊下で待っていた。


「そろそろだと思いました」


「……約束は守れよ」


「安心してください、約束は守ります」


「………折角のクリスマスなのに……」


 高志は一人でそう呟きながら、廊下を歩いて玄関の方に向かった。

 スマホの電源を入れ、高志はスマホの通知を確認する。

 スマホには三件の着信履歴とメッセージが6件来ていた。

 その中で目に止まったのは、やっぱり紗弥からのメッセージだった。

 高志は車に乗り、紗弥からのメッセージを確認する。


【何かあった? 無理はしないでね】


「……紗弥」


 たったそれだけの言葉、たったそれだけの文字なのに、高志にはその言葉が胸に突き刺さった。

 これから自分がやろうとしている事を思うと、高志はどうしようも無く、自分が許せなくなってしまった。





 紗弥は高志に朝指定された場所に来ていた。 時間よりも少し早くきてしまい、紗弥はベンチに座って高志を待っていた。

 雪が降り始め外は寒かった。

 日も落ちるのが早くなり、17時にもなると外はもう暗い。

 クリスマスと言うこともあり、公園にはこの時間でも多少人がいた。

 公園にはクリスマスツリーが設置されており、そこにはカップルや家族連れが楽しそうに笑顔を浮かべていた。


「高志……まだかな」


 久しぶりにちゃんと高志と話しが出来るかもと思うと、紗弥は嬉しかった。

 どんな形であっても好きな人と話せるのは嬉しい。

 しかし、その反面、紗弥は凄く嫌な予感もしていた。


「紗弥」


 紗弥は名前を呼ばれ、呼ばれた方を振り向いた。

 そこにはコートを着た高志がいた。

 高志は歩いて紗弥の元にやってくると、紗弥に微笑んだ。

 しかし、その高志の笑みが紗弥の嫌な予感を更に強くした。


「悪いな待たせて」


「ううん、大丈夫だよ……」


 なんだかこうして話すのは随分と久しぶりな感じがする紗弥。


「少し歩こうか」


「う、うん」


 高志は紗弥にそう言い、公園の中を歩き始めた。

 いつもなら手を繋ぐ二人だが、その手は繋がれない。

 

「最近……何か忙しいの?」


 紗弥は勇気を出して高志にそう尋ねる。

 返事が来るのが怖かった。

 でも、紗弥は気になっていた。

 高志はゆっくりと口を開き、紗弥の問いに答える。


「あぁ……ちょっとな……ごめんな、最近会えなくて」


 そう言う高志に紗弥は短く「そっか」と答える。

  

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