第41話
*
「よし、ここだな」
「じゃあ私はこうしてチェックメイトです」
「え!? あ……ま、マジか……」
「どうしますか?」
「ま、待って! 今の無し!」
「うふふ、ダメです」
高志は瑞稀とチェスをしていた。
外は雪が降り始め、時間も遅く鳴りつつある。
高志はこれで5戦5敗と瑞稀にチェスで全敗していた。
「瑞稀はボードゲーム強いんだな」
「得意なんです、でも父には一度も勝てた試しがありません」
高志が今居る部屋には世界各国のボードゲームが保管されていた。
なんでも瑞稀の父親が集めていた物らしく、瑞稀はこの部屋のゲームで良く父親と勝負をするらしい。
「でも、こうして父や使用人の方以外の方とゲームをしたのは始めてです」
「そうなのか? 悪いな、俺はあんまり頭を使うゲームは得意じゃなくて……」
「いえ、八重さんの表情を見るのが楽しいので」
「それってどう言う意味だよ」
「うふふ、教えません」
「おいおい、馬鹿にしてないか?」
「いえ、そんなことありませんよ」
そんな話しをしている時、高志はふと壁の時計を見た。
「瑞稀……悪いな、少し出かけてくるよ」
「あ、そうでしたね……あの……また戻ってくるんすよね?」
「あ……あぁ、直ぐに戻ってくるさ」
高志はそう言って席を立ち上がり、部屋のドアに向かう。
「それじゃ、ちょっと待っててくれ」
「はい、それではお気を付けて」
笑顔の瑞稀に見送られ、高志は部屋を後にする。
部屋を出ると伊吹が廊下で待っていた。
「そろそろだと思いました」
「……約束は守れよ」
「安心してください、約束は守ります」
「………折角のクリスマスなのに……」
高志は一人でそう呟きながら、廊下を歩いて玄関の方に向かった。
スマホの電源を入れ、高志はスマホの通知を確認する。
スマホには三件の着信履歴とメッセージが6件来ていた。
その中で目に止まったのは、やっぱり紗弥からのメッセージだった。
高志は車に乗り、紗弥からのメッセージを確認する。
【何かあった? 無理はしないでね】
「……紗弥」
たったそれだけの言葉、たったそれだけの文字なのに、高志にはその言葉が胸に突き刺さった。
これから自分がやろうとしている事を思うと、高志はどうしようも無く、自分が許せなくなってしまった。
*
紗弥は高志に朝指定された場所に来ていた。 時間よりも少し早くきてしまい、紗弥はベンチに座って高志を待っていた。
雪が降り始め外は寒かった。
日も落ちるのが早くなり、17時にもなると外はもう暗い。
クリスマスと言うこともあり、公園にはこの時間でも多少人がいた。
公園にはクリスマスツリーが設置されており、そこにはカップルや家族連れが楽しそうに笑顔を浮かべていた。
「高志……まだかな」
久しぶりにちゃんと高志と話しが出来るかもと思うと、紗弥は嬉しかった。
どんな形であっても好きな人と話せるのは嬉しい。
しかし、その反面、紗弥は凄く嫌な予感もしていた。
「紗弥」
紗弥は名前を呼ばれ、呼ばれた方を振り向いた。
そこにはコートを着た高志がいた。
高志は歩いて紗弥の元にやってくると、紗弥に微笑んだ。
しかし、その高志の笑みが紗弥の嫌な予感を更に強くした。
「悪いな待たせて」
「ううん、大丈夫だよ……」
なんだかこうして話すのは随分と久しぶりな感じがする紗弥。
「少し歩こうか」
「う、うん」
高志は紗弥にそう言い、公園の中を歩き始めた。
いつもなら手を繋ぐ二人だが、その手は繋がれない。
「最近……何か忙しいの?」
紗弥は勇気を出して高志にそう尋ねる。
返事が来るのが怖かった。
でも、紗弥は気になっていた。
高志はゆっくりと口を開き、紗弥の問いに答える。
「あぁ……ちょっとな……ごめんな、最近会えなくて」
そう言う高志に紗弥は短く「そっか」と答える。
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