第38話
*
高志の予定では、今日は紗弥と一緒に居るはずだった。
しかし、今高志の目の前に居るのは紗弥では無い。
「八重さん?」
「え?」
「どうかなさいましたか? なんだかぼーっとしていたような……」
「あ、あぁいや! な、なんでも無いって! そ、それよりもアレだな! 凄いツリーだな!」
「えぇ、毎年お父様が家の庭に準備して下さるんです。私は外に出て見に行くことは出来ないので」
高志は瑞稀と共に、瑞稀の屋敷の庭に設置された、大きなクリスマスツリーを見ていた。 流石は金持ちと言った感じで、ツリーは大きいし飾り付けも豪華だった。
「夜にはライトアップもあるそうなので、楽しみにしていてくださいね」
「あぁ、楽しみにしてるよ」
高志は笑顔で瑞稀にそう言う。
しかし、高志は内心ではあまり喜んではいなかった。
紗弥を放って他の女の子とこうしてクリスマスに一緒に居る。
どうしてこうなってしまったのだろうか?
そう何度も考えた高志だったが、その度に自分の自業自得だと言うことに気がつき、自分を責め続けた。
最近では前以上に紗弥の事を考えるようになっている高志。
感じるのは紗弥への罪悪感ばかり。
「そろそろ中に入らないと……また体を悪くするぞ」
「そうですね、それでは戻りましょう」
高志は瑞稀にそう言って、瑞稀と共に中庭から屋敷の中に移動する。
「……あまりお嬢様を不安にさせないように」
「……分かってるよ」
屋敷の中に入る際に、伊吹が高志に小声でそう言ってきた。
今の高志は伊吹に監視されている。
その言動、行動、すべてを見られていると思うと、高志は息が詰まりそうだった。
「……」
高志はふと自分のスマホを確認する。
屋敷に入ってから電源を切っており、一切高志はスマホを確認しては居なかった。
着信が四件あり、内二回が紗弥からだった。
「……紗弥」
高志は、スマホに映し出される紗弥の名前を見て胸が痛くなるのを感じた。
そして残り二件の着信は家から一件と優一から一件だった。
きっとどっちも紗弥と何かあったのでは無いかと心配して高志に連絡をしてきたのだろう。
「………」
高志は無言でスマホの電源を落とし、そのまま瑞稀の後ろを付いて行く。
*
「くそっ……繋がらないか……」
「優一さん、さっきから何をしてるんですか?」
優一は朝から芹那と出かけていた。
今はカフェに入ってホットドリンクを注文し、二人は休憩をしていた。
優一は高志の事が気になり、朝からメッセージを送り続けていたのだが、一向に返信が無いので一本電話を入れたのだが、高志はその電話にも出なかった。
「あいつ、一体何をしてんだ?」
「むー、今は私とのデートなのに……優一さんは八重先輩のことばっかり……」
「ん? なんだ、何怒ってんだ?」
「別に怒ってませーん! プイッ!」
「わかりやすいなぁ……お前」
優一はため息を吐きながら、明らかに機嫌の悪い芹那にそう言う。
「悪かったよ、でもあいつらの事も……少し心配なんだ」
「本当言うと、私も心配ですよ……あんなに仲が良かったのに……」
芹那も高志と紗弥の事を内心では心配していた。
いつも仲が良く、芹那は優一とあんな関係になりたいと憧れすら抱いていた二人だった。 しかし、そんな二人に破局の危機が訪れている。
「宮岡先輩……大丈夫かな?」
「まぁ、そっちは策を打ったが……」
「え? 何を?」
「御門ならなんとかするだろ……」
優一は密かに由美華に連絡を取り、紗弥の様子を見て欲しいと頼んでいた。
紗弥の方を由美華に任せ、優一は高志の方をなんとかして、二人に元の関係に戻って欲しいと思っていた。
「………とりあえず、飲んだら行くぞ」
「はい! ホテルですね!」
「まだ朝だし……それ以前に行かねーよ」
「えー、私の事を踏んでくれる約束はぁ~?
」
「はぁ……アホ」
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