第30話

「い、いや……多分……そういうのでは無いと思う……」


 そうは言った紗弥だったが、実際は色々と引っかかる事があるのも事実だ。

 

「そう? いや、なんか話しを聞いてる限り少し心配になってさ……」


「それはありがとう。でも、これは私と彼の問題だから……」


 自分から話して置いてなんだと紗弥は思ったが、これ以上自分と高志の関係に口を出して欲しくなかった。


「あ……ご、ごめん……いや、中学時代の学校のアイドルに彼氏が出来たって聞いて……色々気になって……」


「アイドル? 私が?」


「うん、自覚無かったの?」


「そんな事言われても……別に思い当たることが無かったし……」


「いや、結構人気あったと思うけど」


「そんな事を言われても興味無いし」


「あはは、そっかそっか……あの頃は結構な数の男子が宮岡狙ってたと思うよ」


 そんな事を言われても紗弥に取ってはそんな事はどうでも良い。

 今は高志のことで紗弥は頭がいっぱいだった。


「お、俺も……そんな男の一人だったんだけど……」


「そう……それはありがと」


 なんでそんな事を言うのかと、紗弥は疑問を浮かべる。

 まぁ、だったって事は今は違うのだろうと考えんがら紗弥は注文したドリンクを飲む。

 

「そろそろ私行くから」


「あ、あぁ……あのさ!」


「何?」


 帰ろうとした紗弥を平沢は呼び止める。

 紗弥は早く帰りたいのにと思いながら、平沢に尋ねる。


「れ、連絡先交換しないか?」


「え? なんで?」


「いや、ここで会ったのも何かの縁だし……それに中学時代のクラスのグループとかあるから招待したいんだ」


「あぁ……まぁ……別に良いけど」


「じゃあ、はいこれ俺のID」


「あぁ、うん。ありがとう」


 紗弥は平沢のIDが書かれたメモ用紙を受け取る。


「たまにメッセージ送っても良いかな?」


「別に良いよ、じゃあまたね」


「う、うんまた」


 紗弥は平沢に別れを告げて店を出た。

 帰り道、紗弥は平沢に言われた事を考えていた。

 信じたくは無いが、平沢が言った言葉も絶対に有り得ないとは言い切れない。

 

「まさか……高志に限ってそんな……」


 思い返して見れば、高志は二股とか浮気とか、そんな事が出来る男では無いと思った。

 そんな事が出来るのであれば、あんなに紗弥に動揺したりしない。

 しかし、動揺に今までの事を考えるとなんとも言えない、合コンに行ったり、修学旅行でも高志は男とキスをしていた。


「……本当に大丈夫……なのかな……」


 高志の今までの事を考えると、少し心配になってきてしまう紗弥だった。





 高志はテスト期間中も瑞稀の家に通っていた。

 瑞稀にその日何があったかを話したり、今までにあった面白い話しを瑞稀にしたり、高志と瑞稀はどんどん仲良くなっていた。


「なぁ、ここはどうすれば良いんだ?」


「あぁ、そこはここをこうして……」


 高志明日のテストの範囲を瑞稀に教えて貰っていた。

 瑞稀は毎日やることが無く、勉強ばかりしていたらしく、かなり頭が良かった。

 しかも教えたかも上手く、高志にとって良い先生だった。


「いやぁ、毎回悪いなぁ」


「大丈夫ですよ、私が教えられることならいくらでも」


「明日でテストも終わりだ、それが終わったら冬休みが待ってる! 頑張らないとな!」


「あぁ、もう少しで冬休みなんですか……私は毎日冬休みのようで……」


「ふ、冬休みも遊びに来るから元気だせ」


「本当ですか?」


「あぁ、安心しろって。じゃあ俺はもうそろそろ帰るよ」


「あ……うん……それでは……」


 高志はそう言うと瑞稀の部屋を後にして、自宅に帰って行った。

 そんな高志が去った後、瑞稀は自室で一人、また外を眺めていた。

 

「はぁ……なんでしょうか……あの方が居なくなると、何故こんなにも寂しいと感じるのいでしょうか……」

 

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