第67話 決意と心折
「か、帰れないって、ふざけんなよ!」
これまで黙っていたジンナーもたまらず激昂する。
「すまない、としか言いようがない。それ以外のことならば君たちの望む限り、何でもしよう。」
申し訳なさそうな顔をしていても、威厳が感じられるのはさすが魔王ということか。
リリーも俺たちの心境を思ってか何も言えないでいるようである。
「せっかく、国選パーティになったってのに…」
クロウが漏らした一言。それは、ここにいる人間4人全員の悔しさを代弁した気持ちだった。
そのため、俺も含めて皆がさらに気を落とした。
しかし、喜色を浮かべた人もいた。2名。
「ん…確かクロウと言ったか。ワシの聞き間違いでなければ今、国選パーティと言ったか?」
「ああ、そうだよ。ここにいる4人全員な。」
「し、しかし、ゲートが暴発して繋がった先は7区と聞いておる。そんなところに国選パーティは…」
「今日、国選パーティになるために競う大会があったんだ。それで俺たちは勝ち残って、それで6区へ行くときに…」
「ふむ。国選カードはもっておるか?」
やや興奮気味なグリムは食い気味に国選カードを求めてきた。
4人揃って、真新しいカードをグリムに見せる。
グリムは満足そうに何度も頷いて言った。
「主ら、人界へ帰れるかもしれないぞ!」
「それは…どうやって?」
カルマが尋ねる。
「ふむ。すぐにとは行かないがな。先も言ったようにオスカーは転移ゲートの製作に全労力をかけておる。
1年かかって、暴発はしたが、人界へ繋ぐゲートを創った。
遅くてもあと1年もすれば、完成品ができるだろう。
だが、あいつがワシや人間に完成したゲートを使わせるはずがない。
つまり…」
喜色を浮かべていたグリムの顔がやや曇る。
「僕たちにそのオスカーって人を倒せ、と。」
「………」
カルマの返答が正解なのか、グリムは何も返さない。
「そ、そうだ。国選パーティの君たちならきっとあの忌々しいオスカーも倒してくれる!そうすれば……あっ」
名案だと、目を輝かせていたリリーも途中で気づいたのだろう。
俺たちを返すために協力するはずが、自分たちの立場を復活させるために協力させようとしてしまっていることを。
「ち、違っ父様も私もそんなつもりは…」
「よい、リリー!ワシもそれを考えなかったわけではない。されど、このままではオスカーのせいでどれだけの同胞を失うか……
すまんな、ワシではこれしか方法が思いつかん。互いにとって最善の道だと思うのだが。」
カルマとクロウが俺に振り向く。
ジンナーは怒りをどこにぶつけていいか分からないようだ。
よし。
「分かりました。俺たちも帰るために、できる限り力を尽くします。」
カルマとクロウが微笑む。やはり2人も、この親子の実直な思いに感じたものがあったのだろう。
どっちにしろ、そうしなければ帰れないなら誰だろうが倒してやる。
さっきの馬鹿みたいに強い魔人は、敵の幹部か何かだろう。決して楽なことではないだろうがやってやる。
そう思っていたのだが…
「国選パーティだったんなら、さっきあんな雑魚に負けかけてたのも、ケガしてたか、何か卑怯な手を使われたのだな。」
純粋な目で頷きかけてくるリリーの思わぬ一言で、もう心が折れそうです。
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