第51話 土棺と最速

「さあ、やってきました。第2回戦第1試合。

片や、今大会注目の新米パーティー、

そして一方は、予選での地形操作や一回戦での森というフィールドをうまく使ったこちらも新米パーティー。


8区の同郷同士の対決です。


それでは参りましょう。

ゼロマジックvsアースクエイク

始め!」


やはりジンナーは一番奥に陣取っている。俺が奴なら開始と同時に使うオーソドックスかつ最適な攻撃はやはり…


俺たちの周囲一帯の地面がウネウネと波打ち、足を取られるように変形する。


「やっぱりか。」


だが誰一人転ぶことはない。


俺が飛翔の魔法で数ミリ分浮いた状態を4人に共有の魔法で共有している。


そのまま俺はジンナーめがけてとり得る最高速度で迫る。


「な、何!?なんで足を取られない!?

クソっ。ロッソ!奴を止めろ!」


「はい!……ってええ!?」


ロッソと呼ばれた奴が俺を止めようとするが、気付いたときにはもう通り過ぎており、俺は既にジンナーの元にたどり着いていた。


「なっ!」


そして、風魔法を使い、威力は無視して、風圧でジンナーを後方へ飛ばすことを優先する。


これでジンナーと俺は互いの陣形から完全に孤立。


一騎打ちとなる。



「やっぱり、不慣れな風魔法の調整は難しいな。」


ボソリと呟くが、興奮したジンナーには聞こえていない。」


「どうなってやがる!

まあ、いい。敵のリーダーのアスカを倒せば俺たちの勝ちだ。」


共有の魔法や飛翔による全速力はマナの調整の難しさから、連続してポンポンと使えるものじゃない。


少しのインターバルが必要だ。


それに対して、地形操作はいつでもできると考えると、今の共有の効果がきれるまでに決着をつけたい。


「すぐにケリをつけてやるぜ!」


ジンナーが地に手を添えると突然四方から俺を囲むように4枚の壁が地から生え出てきて、天も塞がれて完全に密閉された。


少しの身動きできる程度の空間しかなく、レイピアを振ることもできない。


反動をくらう覚悟で壁に向けて炎弾を放とうとするが…こちら側の壁の表面が凸凹し始め、すごい速度でいくつもの突起がこちらに突き出てくる。


回避する術はなかったが、あくまで地属性“魔法”であるため、魔法が効かない俺に対し、突起は、俺にダメージを与えることなく霧散した。



しばらく続く沈黙の時間。



「ははは。やったぞ。俺の渾身の技だ。第1予選では技の性質上使わなかったが、攻撃力はそこらへんの大規模魔法なんかには退けをとらないはずだ。


ついに、アスカをやってやったぞ!」


「おおーーっと、ジンナーによる謎の攻撃。アスカは土の棺桶に入ったまま出てきません。勝負は決まってしまったのでしょうか。」


「のでしょうか、じゃなくて決まったんだよ。ほら今解除して…」


土の箱に歩み寄って、解除した途端、ジンナーにいくつもの火の粉とレイピアの切っ先がたたみかける。


「な!…ん、だ…」


そう、このときを待っていた。


外からは中の様子を見れないこの技。こちらから動かなければ、解除するまでこちらの安否は分からない。


できるだけ早く決着をつける必要があったので、地属性魔法でレイピアや炎弾を防がれる近接戦に持ち込むよりか、油断したこのタイミングでの一括攻撃。


これを狙った。


それでもここまで油断してくれるとは。自分の力によほどの自信がある傲慢な性格だったからだろう。


クロウやカルマが相手なら絶対こうはいかない。


結局、運がよかったってことか。



「ななななんとーー!最後の最後でのカウンター!一瞬でジンナーの2枚のシールドをぶち破りました!

今大会最速!わずか30秒で決着がつきました!


ゼロマジック!決勝進出です!」


「ウォオオオオオオオオ!」


「な、なんでアレを食らって無傷なんだ。アスカ、お前何をした?」


試合が終わり、転移ゲートへ向かう途中にジンナーに問いただされる。


「何もなにも、中で全部避けただけだ。」


嘘だけど。


「避けただあ?テメエふざけてんじゃねえぞ。」


「ジンナーさん。負けたものはしょうがないですよ。ほら行きましょう。」


「おい、こら、ロッソ、離せっておい!

くそおおお!」


そうして興奮状態のジンナーは仲間に連れられ、半ば強制的に転移ゲートへ入っていくまで、フィールド内に怒声を振舞いていた。

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