第38話 夜夜と英雄
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イオン、メグ、ルイズ対ゴーレムとの戦いから10日後。
ここは宿屋の一室。アスカはクロウとのダンジョン攻略も終えて、小さな寝息を立ててすやすやと眠っている。
その隣で蠢く影。クロウである。
「イオン、おいイオン。起きろ。」
「ん〜なにぃ〜もう朝?」
「違う、ちょっと付き合ってほしくてな。」
「ん〜ちょっとだけだよ」
そうしてこれから幾夜の間、クロウとイオンは暗い街の中へと消えていくのだが、アスカはそれをしる由もなかった。
一方女子部屋では---
「ねえ、メグ。買ってきたんでしょ?早く出しなさいよ。」
「ちょっと待つっすよ。暗いんだから、おっとっとと。」
こちらも2人で本を広げて小声で毎夜を過ごすのだった。
度々寝不足になったため、ダンジョンに潜る上で危険だと後にアスカに注意されることになるのだが、それはまた別の話。
それから一ヶ月ほど後-------
「確か、今日このアーメリアの街を出て行かれるんですよね。アスカさんたちならきっと勝ちあがれると信じてますよ。頑張ってください。」
「ありがとう。リーニャには色々世話になったね。また機会があったら必ず顔を出すから。」
ギルドの受付嬢のリーニャとは毎日顔を合わせているため、とても仲良くなった。
ギルド側としても、毎日大量の素材を売りにきてくれるパーティは歓迎なのだろう。
尤も、俺たちのパーティは売却素材のほとんどが、ボス魔物に偏っているのだが。
すると、やりとりを見ていた他のベンチャーが声を上げる。
「おーい。英雄さんたちが出発だぞ。
地竜の準備はいいかー。」
地竜とは、9区でいう馬のような移動手段だが、その速さは桁違いなものである。
さらに、地竜の風魔法により、走行中の衝撃はそのほとんどが緩和される。
現代日本もビックリな交通手段だ。
「あんさん、あんさん。私ら英雄ですって。なんか照れるっす。」
「そうだよ、僕、恥ずかしいよぉ。」
そんな2人に苦笑しながら、ギルドの中、外、街並みのそこら中に貼られているポスターに目を向ける。
『Aクラスパーティ「ゼロマジック」
ダンジョン67号の最下層30層を攻略』
15階層を突破した後、3人の実力は十分に分かったため、あとは連携の練習のため、5人での戦闘を開始した。
20階層を超えてからはそれなりに苦労はした。特に、30階層のボスはAクラスのワイバーン(竜種の中位の魔物)であり、さすがに骨がおれた。
ショックが大きかったことは、上位の魔物だからといって必ずしも魔法は覚えられないということが分かったことだ。
ゴーレムや20階層のボスなどの魔臓からは何も取り入れられなかった。
あのダンジョンであれから手に入ったのは
シルヴァーウルフの魔臓とワイバーンの魔臓からで
『固有魔法 共有
魔法 (属性 風) 』
である。とくに固有魔法の共有は、自分の状態、例えば、自分が隠密の魔法を使って透明化している間、共有をかけた者にも数分の間同じ効果を与えられるという魔法で実用性が高い。
そして、何と言っても1番嬉しかったのが、ダンジョン最奥部にあったマジックアイテム。
ハンドガン型のものであり、実弾はなく、使用者のマナを装填して撃つものである。
とても強力な武器になるので俺が使わせてもらうことになった。
『遠距離攻撃の要を持っていかないでよね』
とイオンがすねていたが仕方ない。
「まあ、あんまりもてはやされるのも得意じゃないけど、よく言ってくれるぶんには甘えとこうぜ。」
「同感だな。」
「ふん、正当な評価なんだからもっと言わせればいいのよ。」
ルイズは嬉しそうに胸を張って歩く。やはりこうやってもてはやされるのが好きなタイプなのだ。
それにしても、自分のことを言外に英雄というあたり、良くも悪くもやはり性格が出ている。
このアーメリアを出た後は、8区の央都へと向かい、大会の受付と特別な申請の後、7区の央都ロンズへと転移することになる。
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