第37話 敗北と成長
「怖かったよー」
「あんさん、さすがっす」
「ふん、私でも倒せたわよ。」
「ルイちゃんったら強がりすぎっすよ。さっきは泣いてたじゃないっすか。」
「なっ泣いてないわよ。ちょっとウルっとしただけだわ!」
初陣から9層までほぼ無傷で攻略できていたため、初めての敗北を知ったのは3人にとっていい経験となっただろう。
まあ、俺も慢心しているつもりはないにしろ、今のところは敗北の経験はないんだが。
シルヴァーウルフの死体を回収した後、到達階層を11層にして、ダンジョンの外に出てきた。
「とりあえず、日も暮れてきてるし素材とかを売りに行くか。」
「賛成!」
ギルドは時間が遅いこともあって、朝と比べて人はそれほどいなかった。
カウンターの受付の女性は俺よりも2つほど上ぐらいといったところで、とても惹かれる容姿をしていた。
「あの〜、素材の売却をしたいんですが。」
「はい、売却ですね。でしたら、ベンチャーカードを提示してください。」
代表だけでいいとのことで俺だけが差し出す。
クラスを見て、もう一度俺の容姿を見て新成人ということを確認すると、受付嬢は驚きを隠せないでいた。
「か、確認はとれました。そ、それで荷物はあまりないようですけど、売却される素材はどこに?」
「ああ、このポーチの中です。」
腰に下げたマジックポーチを示す。
「空間魔法つきの収容物なんて、Aクラスのパーティでも持ってる人は少ないですよ。」
苦笑しながら受付嬢は言ったが、それはこの類のマジックアイテムがどれほど高価であるかを表している。
そう、それこそ優秀なAクラスベンチャーで手に入るかどうかだ。
その後は、全員15歳のパーティが初日でシルヴァーウルフを倒したことなどに驚かれはしたが、素材を見積もってもらい、金貨2枚と銀貨10枚になった。思ったよりも多くなったが、素材の剥ぎ取りなどの費用で2割を持っていかれたのが残念だった。まあ、そこまで金に困ってないが。
今は宿の一室で今後の方針を話し合っている。
「とりあえず、11〜14層で魔物を倒しつつ、3人には俺たち抜きで倒せるまで毎日シルヴァーウルフに挑戦してもらう。」
負けたのがよほど悔しいのか、あれほど怖がっていたイオンでさえも意思のこもった目でうなづいた。
それは他の2人も同様だった。
そんな3人の強い意志があってか、はたまたクロウの属性付与魔法が完成したからか、3人がサブの武器でもシルヴァーウルフを難なく倒せるようになるのに、それから半月程しかからなかった。
「アスカ、そろそろあいつらも15層のボスとやらせてみたらどうだ?」
もう何十体目かと思うほど回収してきたシルヴァーウルフの死体を回収していると、クロウにそんな声をかけられた。
「確かに、正直あの3人の成長速度は凄まじいし、あれだけ余裕をもって戦えてるとなるとあいつにも勝てるだろうな。」
あいつ、とは15層のボス、ストーンゴーレムのことだ。
なぜそんなことを知っているのかといえば、すでに俺とクロウはそいつを倒している。
クロウの魔法の練習も兼ねて、夜な夜な2人で少しづつダンジョンへ入り、既に20層までは達しているのだ。
「よし、みんな。今日はもう1匹ボスを倒しに行こうか。あ、それとメインの武器も使っていいぞ。」
その言葉を聞いた3人はあからさまに喜色を浮かべて、はしゃいでいた。
おそらく、努力してきた成果を認められたと感じて素直に嬉しかったのだろう。
こうして、ストーンゴーレム対イオン、メグ、ルイズの初戦は開かれた。
ゴーレムの体躯は3m〜4m程あり、それもあってか移動速度は遅いとは言えないが、脅威にはならない。ただ、一撃の威力は相当なものだが。
ランクはCでも上位に位置する。
ちなみにシルヴァーウルフはランクCの下位だ。
「両足、封じます!」
イオンの宣言が開戦の合図となった。
クロウの多様な付与が可能になった今ではイオンの左右の腰には効果ごとに分けられた矢筒が3、4個かけられている。
「ストーンゴーレムみたいに硬いやつは…」
『貫通』の付与
かけられたものは貫通力が上昇する。弓矢や槍に特化した付与。
しかし、それでもストーンゴーレムの体は容易には砕けない。
故に、
2本の矢が順にゴーレムの左右の足の付け根、人間でいうところの関節に差し込まれた。
そう、いくら石でできているからと言ってひとつながりでできて身動きができるはずもない。最も接合が緩い部位が存在する。
歩を止めたゴーレムに向けて左手で振るわれるムチはゴーレムの頭部を巻きつける。
そのムチはシルヴァーウルフの硬い皮で作られており、その牙の欠片も所々にフックのように埋め込まれている。
「つかまえたっす!」
『磁力』の付与
2カ所にNとSを付与することで好きなタイミングでその2つを急速に引き寄せる。
ムチにはN
グローブにはS
すでにメグは右手を振りかぶっており、
「くーだーけろー!」
瞬間、引き寄せられた頭部とメグの右拳は急速に接近する。
双方からの威力が重なり、ただでさえ強力なメグの拳撃はさらに威力を増す。
ボコキッという音と共にゴーレムの頭部は砕け散った。
「っと」
それでもゴーレムは右腕を横から振り払うが、咄嗟にメグはバックステップで回避するのと入れ替わりで槍の切っ先が姿を表す。
かけられているのは
『火』の付与
「ったく、少しは中衛の手柄ももう少し残しておいてほしい…わ!」
突き出された槍は払われたゴーレムの右腕の付け根に突き刺さり、そのまま腕を切り落とす。
ゴーレムの肩には未だに火が灯っている。そこに後方から矢が3本ほど放たれると、ゴーレムは事切れた。
「「「ふぅ」」」
「おいおい、アスカ、これは思ってた以上に…」
「ああ、ここまで圧勝だとはな…」
確かにあそこまで戦闘能力を高めている要因にクロウの付与魔法は大きく関わっている。
普通の魔法使いでは同じ魔法使いでもこうはいかない。
クロウの膨大なマナの量があって成せたワザだろう。
だが、それだけではない。
イオンは、初見の魔物の弱点を見極めて先制を仕掛けた。
メグは、選定とサブの武器を独自に組み合わせて強力な一撃を生み出した。
ルイズも、メグとの入れ替わりのタイミングは完璧で中衛としての動きを全うしている。
「20日間でこれだけ変わるか…」
3人を多少軽んじていたことを反省して、これからの頼もしさを想像して、自然と口角が上がる。
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