第14話 雷動と開戦

テレビドラマとかで見る銀行強盗に出くわしてしまった人ってこういう気持ちなのだろう。


俺?俺は今、盗賊団に捕まって縄で縛られている。


余裕でいられるのは炎魔法を使って縄を燃やしてしまえば簡単に抜け出せるからだが、どうやらここの村人全員が捕まってしまっているらしく、むやみに動いてしまうわけにもいかない。


武器も取られているしな。


ギーブは今にも暴れだしそうだが、ケイトがどうにか抑えている。


「お頭、このガキたちすげえぞ、金貨を何枚も持ってやがる。この金の腕輪は何でしょうか?」


賊たちにお頭と呼ばれているのはさっきのオッさんだ。


「どうやらこの村の奴じゃねえみてえだな。ここに居合わせるたあ、ついてねえな。ハハハハハ。」


そういってオッさんは腕輪が気に入ったようで、2つある腕輪を左右に嵌め、この村の村長らしき人物がすわる場所に向かう。


金や食糧を要求しているのだろう。


すると隣にいた村人がヒソヒソと話しかけてきた。


「巻き込んでしまって、すまない。旅の人だろ?本当に運が悪い。

あいつらは雷動のザザの率いる盗賊団だ。」


「雷動のザザ?」


「ああ、9区では滅多に出ない選定の魔法系。その中でも稀で強力な雷魔法。その選定と荒れた気性からついた2つ名だよ。

普段は央都周辺で活動してるはずなのに、急にこの村に現れたんだ。命だけは助かることを祈るばかりだよ。」


なるほど、雷魔法か…俺はともかく他の人に当たったら大変だ。


ずっと待ってるわけにもいかないしな。そろそろ動くか。


敵の数はザザを入れて10人。

ザザは俺が相手をするにしてもまずは手下どもを無力化させないと村の人たちが危ないな。


4人に目配せすると、俺の言いたいことが分かっているように頷いて、5人がゆっくり1箇所に集まる。まずは、俺の縄を超控えめな炎魔法で燃やす。


魔臓とポーチは捕まる前に服の内ポケットに隠し持っておいてよかった。


さあ、両手が自由になった。


反撃開始だ。



ポーチから果物ナイフをとりだして、4人の縄を後ろ手に切っていく。まだ動かない。


敵は…剣が5人、槍が3人、斧が1人にザザか。


全員の準備を確認してから、俺はもう隠さずにポーチから木槌と木刀2本を取り出して、

ギーブ、ケイト、クロウに渡す。


「行くぞ!!」


諸々の動作と俺の合図に盗賊たちも気づく。


シャルルは後ろで補助を行い、ギーブたち3人で油断していた手下を1人あたり2人を無力化。


その間に俺は全員の武器を取り返し、交換してポーチにしまう。


そして俺はザザへ、3人は残りの手下3人へとそれぞれ向かう。


ギーブたちが初撃を与えた後に、残った手下は村人に刃を向けていれば俺たちの反撃は止まっただろうに、怒りに任せてこちらに襲いかかってきてくれるほど短絡的だったことに少し安心した。


でもさすが盗賊なだけあって、油断していなければギーブたちが簡単に勝てるほど非力ではないようだ。


「ずいぶんと派手に暴れてくれたじゃねーか。ああ?クソガキよ。」


そうだった。俺の役目はザザの制圧。集中しなければ。


激昂したザザの右手はパチパチと弾け光る鋭い光に覆われていた。


まず初手で動きを封じることを優先して、低姿勢で相手の懐に突っ込み、ザザの右太ももにレイピアを突き刺す。


抵抗が全然感じられなかった。これは相当な切れ味らしい。

「ぐぁあ!この野郎!」


ザザの体躯はがっちりとしていて、刃で肉を貫かれても怯まず、攻撃を終えて隙だらけになった俺の腹に雷をまとった右拳を下から上にすくい上げるように放つ。

アッパーだ。


当然、回避する余裕もない俺はその雷撃をくら------わないが、拳撃のあまりもの威力に後方へ吹っ飛ぶ。


「ぐっ」


おかしい。どれだけ鍛えてもこんなに重いパンチ出来るはずがない。

肋骨も何本か折れている。

ゴブキンの自然治癒がなかったら死んでいたかもしれない。


なんなんだ?身体強化系の魔法があるのは知ってるが、ザザの選定は雷魔法のはずだ。


「おいおい、ずいぶんとひ弱なんじゃねえか?殴り甲斐がねえぜ。」


どうやら、衝撃が大きかったので魔法が無力化されたことには気づいていないらしい。

運がいいのやら、悪いのやら。


なんにしろ、あの一撃は重すぎる。近接戦闘は避けよう。


人目につくが…仕方ない。


魔法を使うか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る