第39話 伝わった悲しみ

 

「どけ!!!!!!」



 カケルから怒号どごうにも似た、リックの魔法の爆音にも負けない程の大きい声が突然、発せられた。

 周りの人間はもちろん、アンデッドと対峙していたハンターまでもその声に驚き、声が発せられたであろう方向を見る。

 だが、周りの人間達も誰が発した声なのかはわからない。

 そして再びハンターと周囲の人間の目は、侵入してきたアンデッドに向くが―――



「い、いない!?」


「どこ行った!!」



 そこにいるはずのアンデッドは影も形もなかった。

 ハンター達はそのアンデッドが逃げたと思ったので、周りの人間達に注意を呼び掛ける。

 人間達はハンターが魔物を取り逃した事に不満ふまんを抱きながら、再びパニックになって逃げ惑った。







「大丈夫か!?」



 俺は門の上で、リックを抱えて立っている。

 あのときとっさにリックを抱えて、門の上まで飛び上がったのだ。

 幸い、誰にも俺とリックが接触した事はバレてはいない。

 下はリックを見失った事で騒がしくなっている。



「ハイ・・・」



 リックから力ない返事が帰って来た。

 もうボロボロだ。見た感じだと意識が朦朧もうろうとしているのだろう、目がうまく見えていないようだ。


 俺は、リックをこんなにした奴らに怒りが込み上げるが、今はそれどころではない。

 リックが何故ここにいるのか。



「リック、何が・・・」



 リックに聞こうとするが、途中でやめた。

 こんな、後から解る事を聞くのは時間の無駄だ。

 リックが命の危険を犯してまで、この国に来た。この事実があれば、解る。



(村でなにか、あったんだな)



 何か予期せぬことが、村の魔物達では対象できない緊急事態があったからこそ、リックは俺を呼ぶ為にここに来た。それは明白だ。

 だから、リックに聞かなければいけないことは、何があったか?ではない。場所だ。



「リック、転移魔法はどこだ?」



 一刻も早く、村に戻らなければならない。

 何が起こっているかはわからないが、とても大変な事が起きているのだろう。

 もしかしたら、既に・・・

 いや、やめておこう。後で、いやでも解る事だ。



「アチラノ・・・森ノ所・・・デス」


「分かった」



 リックが方向を指差す。

 俺はリックを抱えて、転移魔法が展開されているであろう場所に、全速力で走っていった。





「師匠?」



 エリカは待っていろと言われたが、気になって少し近づいていた。

 そのため、カケルがアンデッドを抱えて森の中に入っていくのを目撃してしまったのだ。

 カケルの特訓により動体視力が上がったエリカはカケルの動きをかろうじて捉えてしまったのだ。


 カケルはそんな事を気にしている場合ではない。エリカの事に気付かず、カケルは転移門の中に入っていった。









「イツキの方は楽しそうだね?」


「そうね」



 メグミとエリカがアンデッドを倒しながら、雑談ざつだんをしている。

 アンデッドの前にはオーガ達とゴーレム達が倒れ付している。

 あれだけいたアンデッドはだいぶ減ってしまった。しかし、メグミ達はいまもアンデッドの死体を増やしていく。


 アユミは弱い範囲魔法に、状態異常を付与して放つ。それを食らったアンデッドはダメージはほとんどないが、付与された状態異常の効果により、動けなくなってしまう。

 これによりアンデッド達というか、魔物達は2人に近づけない。

 そして、メグミがまるでゲームのように、死体のようなアンデッドを生きているのか、死んでいるのか、予想しながら動けなくなったアンデッド達に魔法を撃っている。

 そうやって死んだアンデッドがどんどんと増えていっている。


 イツキの方は聖剣の力で何とか互角の戦いをリビングデッドと行っている。

 だが、やはりリビングデッドの方が余裕があるように見えるのは技術によるものだろう。


 イツキは中々倒せない、リビングデッドにイライラしながらも、どこか歯ごたえがある敵がいることに喜んでいた。



 スライムさんは何とか、時間を稼ごうと考えているが、戦力差がありすぎる。

 スパーダが1人を抑えているため、こちらは残り2人だが、その2人に手も足も出ない状況だ。

 もう既に、たくさんの死者が出ている。

 このまま、仲間の命を代償だいしょうに時間を稼ぐ事しかできないのか?

 スライムさんは、この村を魔人様がいない間は任された身としては、非常に情けない気持ちでいっぱいだった。



「こんな雑魚相手にしてないで、私達もイツキが相手をしているリビングデッドの所に行かない?」


「うーん、そうね。イツキはずいぶん楽しそうだし、私達だけこんな雑魚ばかり相手にさせられるのはなっとく行かないわね」


「じゃあこっち側はさっさと片付けちゃお!」



 人間2人は何やら会話をしながら、片手間でスケルトン達を蹴散らしている。

 2人のその会話が終わると、1人は今までより広範囲な魔法を使ってきた。

 その範囲はアンデッド軍団の後ろにいた、トレントやトロルといった後方支援メンバーまでに及んだ。もちろん、スライムさんまでもだ。

 離れて戦っているスパーダ以外、生き残っている全員の魔物が動けなくなってしまう。


 そして、もう1人が、魔法を唱えた。


 その魔法はデカイ氷塊ひょうかいを上空に生成した。

 そのまま、上空の氷塊は独りでに動き、少し砕ける。デカイ1つの塊ではなく、いくつもの大きい氷の塊になったそれは、見るから異常な冷気をまとっている。


 スライムさんはその魔法で我々を押し潰し、凍り付けにでもするのだろうと理解した。

 そして、このまま死んでしまうのだろうと悟ってしまう。

 周りで同じように動けなくなっている者も同じ事を考え、思っているだろう。


 上空から氷の塊が降ってくる。スライムさんは謝罪の言葉を心の中で述べ、ないはずの目を閉じた。



「・・・なに?」


「ええ!?」



 しかし、いつまでたっても体に衝撃はない。

 理解できない人間の言葉が短く聞こえたが一体、なにが起きているのか。

 恐る恐る周りを確認すると、そこには―――



 魔人様が立っていた。








 カケルが村についた時に見たのは魔物達に迫る、デカイ氷の破片はへんだった。

 カケルはすぐに刀を抜刀ばっとう。具現化した殺気を用いて、その氷の破片を細かく切断。

 落下してきたのは現代の日本の冷凍庫で作られている氷ほどの大きさになったメグミの魔法だった。



「・・・なに?」


「ええぇぇ!?」



 この魔法を放ったメグミと、その光景を見ていたアユミが驚きの声をあげる。

 カケルはその2人の女性を見るが、それよりも目についた光景は、たくさんの魔物が倒れ付している光景だった。



「お前らッ・・・大丈夫か?」



 カケルが後方にいた魔物達に問いかける。体は動かないが、話す事は何とか出来た。

 スライムさんのそばに居たジャックとダストがカケルに向けて、謝罪の言葉を口にした。

「申シ訳ゴザイマセンデシタ」と。

 カケルはその一言で全てを理解したのだ。



「動けるものはいるか!?」



 声をかけると、魔物達は何とか動こうとしているが誰も動けそうにない。

 そんな中一体のアンデッド・ナイトが何とか立ち上がった。



「お前は無事なのか?」



 すぐにそのアンデッド・ナイトの所に駆け寄り、声を掛ける。

 しかし、彼は何とか立ち上がっただけでそれ以上は動けなかった。

 そこでカケルはそのアンデッド・ナイトに、自分の具現化した殺気を与えた。


 カケルはこの症状を疲労ひろうかエネルギー不足と考えた。なぜなら麻痺や毒などの状態異常は肉体が死んでいるアンデッドには効かないとハンター組合で聞いたこと事がある事を思い出した。

 アンデッドやゴーレムのエネルギーは減らなく、肉体がないため状態異常が効かない。

 ならばこのアンデッドも動けない現象は疲労か、もしくは動く事ができるエネルギーがない状態の可能性があると考えたのだ。



「動けるか?」


「オァァ」



 具現化した殺気でエネルギーを急速に回復したアンデッド・ナイトは動けるようになった。

 カケルの予想は的中していたのだ。

 アンデッド・ナイトが動けるようになったのを確認すると、他の動けなくなっているアンデッド達に向けて、具現化した殺気を


 エネルギーを補給したアンデッド達が起き上がってくる。

 何体か全く動かなくなってしまっているのは、後で供養することにしよう。

 今はそれよりも、避難をさせなければいけない。



「お前らは動けなくなった奴らを連れて、向こうのサイゴン達の所に行き、転移魔法で避難しろ。後のことはサイゴンに伝えてある。わかったな?」


「オァァァァ!!」



 カケルの指示を聞いた、復活したアンデッド達が他の動けなくなっている魔物達をなんとか連れていく。

 動けなくなった魔物も多いが、まだアンデッドの方が多かったため、なんとか全員を避難させられそうだ。



「魔人サマ・・・ドウカゴブシデ」



 アンデッド・ナイトに持ち上げられ、連れて行かれているジャックが最後に言った。



「・・・ああ、任せろ」



 カケルはその返事を短く返した。

 その目はジャックではなく、2人の女の方を睨み付けてたままだ。

 やがて、この場から生きている魔物は全員がいなくなった。

 今ごろ魔物達は、リックと最初にあった荒野に避難しているだろう。



「あえて、黙って見ていてあげたけど、あなた何者?」



 カケルと対峙している、メグミが言葉を掛ける。

 アユミの口振りはわざと、避難する魔物を見逃したように言っている。

 隣にいるアユミもどうやら同じらしい。



「1つだけ、質問してやろう」



 カケルはメグミ達の質問には答えずに、カケルから質問を1つだした。

 自分の質問が答えられてないのに、質問をしてくるカケルにメグミは大変不満があるが、ここは黙って聞いてあげているという態度だ。



「お前らはここに何しに来た?返答によっては俺の心が少しだけ動くかもしれない」



 そう言ったカケルの表情はとくに普通だった。

 だが、その心は明らかに怒りの炎で真っ赤に燃え上がっていた。



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