第36話 託される勝敗

 


 魔物達は最悪の想定が現実になるかもしれない、とそれぞれ思っていた。

 強大な魔法とその被害状況ひがいじょうきょうを見て今回の襲撃者はヤバいと誰もが思い、それを身をもって感じ取っていた。

 そんな中、スライムさんだけはいち早く動きこの村住人である全ての魔物達に何とか迎え撃つ準備を指示した。

 村の魔物達が一丸となって戦闘準備を始める。

 トロルとトレントそれにデビル族はいつでも魔法を撃てるように準備。オーク族、ゴーレム、アンデット、ゴブリンそれと先日仲間入りしたオーガ達は魔法が得意とは言えないので接近戦の準備だ。


 オーガ達は先日の襲撃のあと、操っていた術者を倒した事により、魅了の魔法から解放された。

 その時に、スライムさんがスカウトしてこの村の一員となったのだ。


 彼らは武器を持ち待機する。

 何故、敵が上空にいるのに地上で戦闘準備をしているか。それはスライムさんの作戦だ。

 敵が上空にいる以上、何とか地上に落とさなければならない。

 それを行うのは魔法を準備している3種類の種族達だ。


 まず地上戦に持ち込む為に、魔法で攻撃を仕掛ける。

 もしも、それが失敗した場合はスパーダの魔人様と同じ力で撃ち落とす。

 最初からスパーダの力を使わないのは、敵にこちらの最大戦力の手の内を見せたくないから、それとスパーダの体力温存の為だ。

 地上戦に移ったら最近進化してその力を見せつけたサンド・ゴーレムとスパーダを筆頭に、接近戦に特化している新入りのオーガそれと大量のアンデット軍団が攻撃を仕掛ける。オーク族とゴブリンは槍と弓で、後方から攻撃。

 トロル、トレント、デビル族は後方から魔法による支援だ。

 スライム達は魔法も接近戦も可能で、一部のスライムは魔力と体力の回復を行えるので、全体的に配置している。



「おお!おお!色んな種類の魔物がウジャウジャいるな」


「確かに凄い数ね」


「ねぇ!あれみてオーガじゃない?あんな集団でいるの珍しい!」



 上空を飛んでるドラゴンが少し高度を落とした事で、そのドラゴンの上に乗っている3体の人間が確認できた。

 何やら言葉を発しているようだが、魔物達にその言葉は理解できない。

 リックの魔法を使えば人間の言葉も解るようになるが、今、こんな状況でそんな事をする必要は皆無かいむだ。



「うーんどれも一度は見たことある奴ばかりだな」


「そうね、この中でギリギリ私達の相手になるのはオーガとあのリビングデッドだけじゃない?」


「闇属性の魔法を使ったレアな魔物は今日はいないのかな?それともこの中のどれかが突然変異でもして使えるのかな?」



 まだ言葉を発しているようだが、魔物達が呑気のんきに待つ必要はない。

 スライムさんは作戦開始の合図として自分の体を大きく揺らした。


 サイゴン達トロルの魔法切り裂く波動/スラッシュ・ウェーブ

 ダスト達デビル族の魔法重力の爆弾/グラビティ・ボム

 ジャック達トレントの魔法発射される木の葉の槍/リーフランス・ショット

 が、それぞれ発動。


 切断属性を持った衝撃波、重力を固めたの球体、葉っぱが集まって出来た槍。

 三種類の魔法が、3つの種族の1人1人の魔物から放たれる。その量は尋常じんじょうではなく、まさに弾幕だんまくだ。それらが全て敵の足であるドラゴン1体に向かっていく。



「うぉぉおい!魔法を撃ってきたぞ!」



 ドラゴンに乗っている男が魔物達の魔法攻撃に驚く。

 恐らく彼らもこんな量の魔法攻撃を受ける経験は初めてなのだろう。

 乗っているドラゴンの方も鳴き声を上げて驚いている。



「任せて!《魔法限定防御壁/マジック・シールド》!」



 とっさにアユミが防御魔法を唱える。

 薄い緑色のまくが円形に広がっていきドラゴンを包み込むように展開される。

 魔物達からドラゴンに向けて放たれた攻撃魔法はその薄い緑色の膜に当たると、四散しさんしてしまった。

 《魔法限定防御壁/マジック・シールド》は接触した魔法を、形成している魔力の状態に強制的に再変換させる事で魔法を無力化し防ぐ事が出来る魔法だ。物理攻撃には意味がないが、魔法攻撃なら問題なく防げる。


 この魔法の取得ランクはC。魔法の中では中位クラスだ。

 といってもこの魔法には欠点があり、防げる魔法の量というか、四散させる事が出来る魔力量が決まっているのだ。

 つまり、この魔法の許容範囲を越えるほど強大な魔法や数多くの魔法を受けてしまう、この魔法は突破される。

 上位の魔法や魔法を連発されると防ぎ切れないのだ。その為、取得ランクがCといった中位クラスなのだ。


 そんな欠点がある魔法だが、アユミには防御魔法を強化するスキルが存在する。

 その《防御魔法上昇》のスキルのお陰で、この魔法の欠点は事実上克服。

 元々の必要魔力量も少なく、攻撃魔法をほとんど防ぐ事が出来る。最高の防御魔法と化すのだ。



「おおおおお!凄い、凄い。私、こんな量の魔法を受けたの初めてだよ!」



 アユミは《魔法限定防御壁/マジック・シールド》に当たって四散していく魔法を見て笑みを浮かべている。

 その光景にイツキはあまり興味を引かれてないようだが、メグミの方はアユミの言ってる事に頷きながら四散していく魔法を眺めていた。


 やがて魔物達が放った全て攻撃魔法は、1つの防御魔法に防がれた。



「終わったかな?」


「まだ、わからないぞ?一応そのまま展開しておけ」


「ほーい」



 マヌケな返事を返すアユミ。

 だが、イツキの言うとおりまだ魔物達の攻撃は終了していない。


 攻撃魔法で撃ち落とせなかった場合の事は既に考えてあるのだ。

 魔物側からしたら現時点での最高戦力であるスパーダの手の内は少しでも見せたくないが、攻撃魔法が通じなかったのだから仕方ない。

 まずは敵を撃ち落としてこちらの戦場に引きずり込まなくては、こちらの手の届かない所からダニー達を蹂躙じゅうりんしたような魔法で一方的にやられてしまう。

 ここは何としてでも、地面に足を着けさせなければいけないのだ。


 魔法が通じなかったのを確認すると直ぐ様スライムさんが体を大きく揺らし、合図を出す。

 スパーダは合図を確認すると刀に殺気を込める。


 そして、殺気による飛ぶ斬撃を放った。





「そうか!闇属性の魔法を使えるのはあのリビングデッドだったのか」



 リビングデッドが放った攻撃を見て、3人は呑気に闇属性魔法の使用者の答え合わせを行っていた。

 なぜ呑気にしているか、それはアユミの防御魔法魔法限定防御壁/マジック・シールドがまだ展開し続けているからだ。

 アユミが仲間になってから3ヶ月しか共にしてないが、2人はアユミ自身を信頼しているし、その実力もよく理解している。だからこその余裕であった。


 そのため、彼らは心底驚いた。

 その攻撃がアユミの《魔法限定防御壁/マジック・シールド》を突破して、ドライグに直撃した事に。



「なにぃぃぃ!!?」


「うそ!?」


「なんでぇ!?」



 ドライグは切断こそされてないが深い切り傷を負い、気を失った。

 翼を広げて飛ぶ行為ができなくなったドライグは3人と共に、重力にという力に従い落下していく。それは皮肉にも、先程彼らが殺したギリガル・ビートルと同じ状態だった。


 ドライグと共に落下した。イツキ達は持ち前の異常な身体能力を発揮し、無事に着地。ドライグは先に着地したイツキが地面に激突しないように受け止めた。



「野郎ぉ!よくもドライグを!!」



 イツキが怒りの言葉を口にする。

 イツキは受け止めたドライグを地面に優しく下ろすと、アユミがドライグに触れてスキルである《状態異常付与》を使用した。

 ドライグに付与した、状態異常は[麻痺]と[定期的体力回復リジェネ]だ。

 麻痺は痛みを感じさせなくするために付与した。

 回復魔法ではなく、状態異常で定期的体力回復リジェネを付与した理由は、スキルは魔力を使わないからだ。

 このあとの戦闘の事を考えて、定期的体力回復リジェネにしたのだ。


 ドライグにスキルを使用し終わると、アユミと一緒に心配そうにドライグを見てたメグミが魔物達をにらみ着ける。



「覚悟は出来てるんで――――」



 メグミのセリフが言い終わる前に魔物達が雄叫びを上げて襲ってきた。言葉か通じないのに魔物がセリフが言い終わるまで待ってくれるなんて優しい事はなかった。


 支援魔法によるバフを掛けられたサンド・ゴーレムとオーガがまず襲いかかる。

 その後ろには多くのアンデットが後に続いている。



「おい、お前らはこいつらの相手をしててくれ。俺はドライグをやったリビングデッドを片付けてくる」



 セリフが途中で中断されて少々イラついてるメグミとアユミに向かってイツキが言う。

 イツキはドライグの仕返しがしたいようだ。



「スキル!《聖剣召喚》!」



 イツキはそれだけ言うと、自分のスキルを発動させた。

 自身のやや後ろに現れる魔法陣に手を突っ込み、聖剣を引っ張り出す。



「壊聖剣デネブ・ド・ボルグ!!」



 イツキが取り出した2本目の聖剣。

 壊聖剣デネブ・ド・ボルグは先程出した光聖剣ベガ=ルタとは違い幅が広いグレートソード、つまり大剣だ。

 イツキはその大剣を両手で持ち、構える。

 そして、サンド・ゴーレムとオーガの壁の一部に突っ込んだ。

 突っ込んでくるイツキに対して、サンド・ゴーレムとオーガは攻撃を行う。

 だが、一刀。横に凪ぎ払うように放たれた大剣はオーガが持っている武器ごと、その攻撃範囲内の魔物を両断した。

 イツキはそのまま、回りの魔物には目もくれず、その後ろにいるアンデット達に紛れているリビングデッドに襲いかかった。


 壊聖剣の能力はその破壊力。

 万物を切り裂く事が出来る破壊力だ。

 その聖剣に切られた者は命をも破壊さる事になる。そのためこの聖剣で殺された者は蘇生魔法などの類いは効果がない。

 現に壊聖剣に切られたサンド・ゴーレムは、先日のオーガの時のように砂の山になる事はない。

 サンド・ゴーレムの形を保ったまま、動かなくなった。





 イツキがスパーダに切りかかる。

 だが、スパーダはその攻撃を前方でやられたサンド・ゴーレムやオーガのようにくらう訳はない。刀を抜き、その攻撃を受け止めた。



「・・・ほう!」



 イツキは今まで防がれた事がない、壊聖剣デネブ・ド・ボルグを用いた攻撃をあっさり刀で受け止めた事に驚き、ある期待を寄せる。

 攻撃を受け止めたスパーダは、受け止めた勢いを殺し切れずに周りの魔物達から離されていく。



「ぐっ・・・!」



 スパーダも想定を越えていた攻撃を受けて少しダメージを負っているようだ。

 そしてこの世界でも屈指くっしの技術力があるスパーダはその一回のやり取りで、あることを悟った。



(この戦いは負ける!)



 この世界では強者として異常な技術を持っているスパーダがイツキと一太刀ひとたち交えて、相手の実力を、敗北を理解したのだ。

 このままでは我々は敗北してしまうと。そう悟ったのだ。



『サトルを呼び戻せ!!』



 スパーダが村全体に聞こえるほど大きな声を上げて、魔人様をなんとか呼び戻せと叫ぶ。それは我々はこのままでは負けると叫んでいるのと同じだった。

 スライムさんはスパーダの伝えたい事を理解し、魔人様にこの事を伝える方法を考える。


 幸い、スパーダの声は人間であるイツキにはデカイうめき声を上げたとしか思っていない。

 作戦を聞かれて邪魔されるリスクは少ないだろう。


 スライムさんは魔人様を呼び戻すための一か八かの作戦を思いついた。

 ものすごい賭けになるが、この現状ではこれが一番だ。

 スライムさんは早速その作戦を実行するためにある魔物の所に急いで向かった。



「ナルホド・・・」



 魔人様にこの緊急事態を伝える役目を行うのはリック。彼しかいない。

 魔人様が人間の国にいる以上、人間の言葉を話せる魔法を行使できて、人型であるリックが適任なのだ。スライムさんは作戦をリックに伝えて、全てを託した。



「ワカリマシタ・・・イッテキマス!」



 トロル達が転移魔法を展開し、最速で転移魔法にリックが飛び込む。今、転移魔法を使用しているトロル達はこのまま転移魔法を展開させておく。

 魔人様とリックが最短でこちらにこれるようにするためだ。

 スライムさんリックを見送ると再びこの戦いの全体をみる。

 スパーダとイツキが激しい戦いをしてる中、メグミとアユミは魔物達を軽くあしらっているように見える。

 スライムさんは魔人様がここに着くまでなんとか持ちこたえるために、頭の中では策を巡らせる。





 この戦争とも言える戦いの勝敗は全て魔人にリックと名付けられた1人のアンデットに託された


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