第34話 襲撃準備

 

 俺の名前は林原はやしばら 一輝いつき。こっちの世界ではアメリカ風に名前を前にしてイツキ・ハヤシバラと名乗っている。

 俺がこの世界に来てもう半年ほどたった。この世界で過ごした半年は充実したものだった。


 この世界で俺はハンターという魔物を退治する職業になったんだが、転移特典なるもののお陰で楽々こなしている。



「で?話ってなんなの?」



 この女は高橋たかはし めぐみだ。この世界に来た時に、俺に色々教えてくれた恩人だ。

 今では彼女と一緒にチームを組んでハンターをやっている。

 彼女は俺より前にこの世界に来ていたらしく、俺よりこの世界に詳しい。半年経った今でも彼女に聞く事が多い。

 


「たぶん依頼の話でしょ!」



 それともう1人。俺達のチームにもう1人女がいる。

 彼女も俺達と同じ世界からこの世界に転移してきた転移者だ。

 彼女と出会ったのは3ヶ月前。Sランクハンターに成り立ての時だった。



 ムードブリム青龍国せいりゅうこく付近の依頼を受けた時メグミが、どうせ近くに来たなら寄って行こうと言い出した。俺もその意見に賛成して、初めてクセルセス宗教国以外の国に入った。

 その街並みはキレイで水のみやこと言うのが相応しい所だった。

 ムードブリム青龍国は国全体がヴィヴィナルという水の龍をあがめて信仰しんこうしている、といううちのクセルセス宗教国に似ている。

 この国ではそのヴィヴィナルが残した水命の滝というデカイ滝の付近に作られている。

 その滝は街全体に行き渡り、飲み水や生活水に使われている。

 その水は体にありとあらゆる不純ふじゅんなものを流してくれるらしい。そのためこの国に住んでいる人々はほかより寿命が長いらしい。

 本当かどうかはわからねぇが。


 俺達2人は日中に青龍国での観光かんこうを楽しみ、暗くなると宿屋を取り一泊した。

 何事もなく、だだ普通に観光客としてこの国を楽しみ終わり帰ろうとした時に、この世界じゃ珍しい黒髪の女を見つけたんだ。その女は暗い表情で歩いていた。

 俺はそれを見てピンッと来たね。あの女は俺達と同じ転移者だって。


 この世界では黒髪は珍しい。それはこの世界に来て1ヶ月目の時に解った事だ。

 クセルセス宗教国には黒髪の人物は誰1人いなかった。茶髪のやつはいたが、黒髪は全くいなかった。

 このムードブリム青龍国に来てもそれは変わららかった。観光していた時に一通り確認したが、黒髪は出会った事はなかった。

 だから、その女にあった時に転移者だと思った。


 俺はその女に声を掛けた。

「もしかして、あんたの出身は日本ってところじゃないか?」と。

 案の定、彼女は日本人。俺達と同じ転移してきた人だった。

 そこから互いに情報交換をした。彼女はこっちの世界に来た時は、俺と違い1人だった。

 訳も解らず、知らない世界に放り出されて不安だったそうだ。だからか、自分と同じ境遇の俺達と出会えて凄く喜んでいた。

 そんな彼女を見て俺は「俺達と一緒に来ないか?」と提案した。

 彼女は即答でOKした。元気な明るい声で、最初に見た暗い表情が嘘のようだった。


 それから彼女、安野やすの 歩美あゆみは俺達とクセルセス宗教国に戻り、ハンターになった。そして本人の希望で俺達と一緒のチームでハンターとして活動している。



「いや、依頼ってわけじゃねぇんだ」


「えー?依頼じゃないの?」



 アユミが俺達のチームに入って3ヶ月。

 もう完全に馴染んでいる。まぁ特典があるとはいえ命を掛けて一緒に戦っているから当然か。

 転移者の特典――ある日メグミが改名を要求したため今ではスキルと読んでいる――についてだが、この半年で共通のものと固有のものが存在する事が解った。



「じゃあ何の話なのよ?」



 俺はメグミの方をチラリと見る。

 少し長めの黒髪は2つに束ねられて、ツインテールといった髪型になっている。白い魔導師っぽい服をきて、杖を持っている。


 メグミの固有スキルは魔法関連のものだ。

 彼女のスキルは《魔法適正》《魔力上限極大》だ。

 メグミは他の人より魔法を覚える速度が異常に早い。それに魔力量が桁違いに多いらしい。

 残念ながら魔法が使えない俺にはわからないが、彼女に魔法を教えたこの国の有名な魔導師がそう言っていた。

 今では彼女が唱えられる魔法は50個以上だ。

 それとはもう1つ。メグミにはスキルというか使命というか、とにかくそういうものがある。


 それは女神めがみの声を聞けるというものだ。

 女神とはこのクセルセス宗教国で崇めている、女神の事だ。

 女神には名前があるが、何故か知ることはできないため、この国の人々もただ、女神と呼んでいる。

 メグミはその女神のおげを聞くことができるそうだ。俺がこの世界に来た時に俺の前に現れたのも、そのお告げで俺が来る事を知っていたからだそうだ。

 実際のお告げの内容はメグミにしかわからないが、女神は詳しくは言わず大雑把おおざっぱな内容だそうだ。

 この国限定らしいが、この国ではごく稀に女神の声を聞く能力をもつ女性が現れるらしい。

 そのため、転移特典のスキルとして数えるかは微妙な所だ。



「なんか面白いものでも見つけたとか?」



 今度は明るい声で首をかしげるアユミをチラリと見る。

 その黒髪はメグミとは対照的に短く切られており、その明るい雰囲気ふんいきとも合わさりボーイッシュな女に見える。実際に性格もそんな感じだが。


 アユミの固有スキルは《状態異常付与》《防御魔法上昇》だ。

 最初の《状態異常付与》はその名前のまま状態異常を付与できるスキルだ。

 状態異常はアユミが自由に選ぶ事ができるため、様々な状況に対応できる。

 この事以外にこのスキルの面白いというか、凄い所が1つある。

 それはデバフだけではなくバフという状態異常をも付与できる事だ。

 ゲームとかではリジェネやリジェネレーションと呼ばれる[一定のタイミングで持続的に回復する]というものから[攻撃力上昇]や[防御力上昇 ]と言ったものを味方にも付与できる。

 確かにバフも状態の異常と言えるだろう。


 もう1つの《防御魔法上昇》もそのまんま名前の通り、防御魔法の効果が上昇するといったものだ。こちらは特に説明は不要だろう。



「んー、まぁ面白いといえば面白いかな?」


「なによ?さっさと言いなさいよ」



 なかなか本題に入らない俺に、メグミが言葉に少しだけ苛立いらだちを込める。



「じゃあ言うけど、俺がドライグと空の旅をしている時に魔物の村を見つけたんだ」


「「魔物の村?」」



 2人の声が重なる。2人とも、なんだそれはと言いたげだ。



「そのまんまだ。魔物が暮らしてる村だ」


「魔物が村なんて作るの?」


「今までもそんな魔物見たことないよ?」


「わかってないなぁ。だから、だ」



 そう、あんなに凶暴きょうぼう残虐ざんぎゃくな魔物が村なんか作る訳がない。だからこそだ。そんな異常な行動を魔物がしてる訳がおそらくある。



「いいか?魔物が村を作る。これは異常な事だ。それは誰だってわかる。問題は何故そうしているか、何故そんな事が出来るか、だ」


「あーなるほど。そういうことね」


「えぇ?メグミは今ので解ったの?」


「まぁね」



 メグミは俺が言いたい事がどうやら解ったようだ。だが、アユミはわかってないようだから説明してやるか。



「いいかアユミ。まず始めに何故そんな事が、魔物が村を作ることができるか、だ」


「んーなんでって言われても・・・」


「村を作るには労力がいる。お前達は実際にその村を見てはいないが、かなりの大きさの村だ。そんな大きさの村を普通の魔物が作れると思うか?いや恐らく無理だ。魔物達が結託しただけで村を作る事はないだろ」


「んんーつまり、どゆこと?」


「つまり、村を作るように魔物達をまとめた何者かがいるってことよ」


「そう、メグミの言うとおりだ」


「おお!なるほど!」



 そうだ。魔物達をまとめて村を作らせた上位の存在がいるハズだ。

 そしてそうさせている上位の存在というのは恐らく―――



「そしてなんで村を作ってるのか、だがこれはわからん。だけど、魔物が何か企んでる事は確かだろうよ。俺は魔王か何かいるじゃないかと思っているけど」



 魔王。RPGではよくいる魔物の親玉おやだまで世界征服とかを企てている、いわゆるラスボスってやつだ。

 RPGの終盤しゅうばんになってくると多くの魔物達が働いてる描写もあったりする。そのため、俺は魔王が何かしようとしていてあの村を作ったのではないかと思っている。



「おお!魔王!RPGの定番ですな!」


「そうね、でも本当に魔王なんているの?」


「それはわからねぇ。だから俺達でその魔物の村にいかねぇか?」


「行くって・・・行ってなにするの?」


「まぁ魔物が何か企んでるってのは確実だ。それを阻止するのと同時に魔王がいるなら戦って見たいしな」


「戦うって・・・まぁわからなくもないわね」


「確かに私も戦って見たい!」



 俺達はここの所、退屈していた。Sランクのハンターとして依頼を受けるが、その魔物達に手応えがない。

 最初は俺もビビりながら恐る恐る戦っていたが、俺たちの共通のスキルである《身体能力強化》があるため、そこまで苦労しなかった。

 それにそれぞれが体の動かし方や自分の力の使い方をこの半年で学び、今ではSランクの任務は俺達の内の1人でもこなせる。

 せっかくファンタジーの世界に来て、戦う力を貰ったってのにその力を最大限に使える敵がいない。退屈な原因は俺達が強すぎて魔物が弱いからだ。



「で?組合には依頼として出したの?」


「いや、組合には依頼どころか報告していない」


「え、なんで?」


「結構な大規模な村だったし、そんな怪しい村の依頼がでれば、一旦調査が行われるだろ?それに調査結果では他のハンターと合同でやるかもしれない。だからさ」



 組合は俺達の本当の実力を知らない。

 そんな状況でこの情報を持ち込んだら、組合は安全のため他のハンターと合同で行うように言うハズだ。

 冗談じゃない。せっかく俺達の本当の力を試せるかもしれないんだ。楽しみを邪魔されてたまるか。



「それに、俺達だけで行けば倒した魔物の報酬を1人締めできるだろ?」



 組合は例え依頼を受けなくても、魔物を倒して魔物の指定された部位を組合に提出すれば、倒した魔物に応じて報酬がもらえる。俺は実際に見たからわかるが、村にいた雑魚でもかなりの数だあれを全て持ってくればかなりの金額に、なるだろう。



「まぁ確かに、お金はたくさんあっても困らないしね」


「お金の事はおいといて、邪魔されずに戦えるってのは賛成かな」


「よし、決まりだな。じゃあいるかもわからない魔王のために念のための準備でもしようか」



 話は決まった。俺は椅子から達上がり、異空間から金貨が入った皮袋を取り出す。

 これは《アイテムボックス》という共通のスキルだ。この異空間にはどんなものでも、どんな数でも入れる事ができる。

 色々なアイテムを入れているがまだ上限は不明だ。



「俺は鎧を整備してもらってくるよ」


「んーじゃあ私も防具整備してもらってくる!」


「じゃあ私は買い出しにいってくるわ」



 そうして俺達3人はまだ見ぬ敵に挑むため、準備を行った。





 そして、5日後。俺達は魔物の村を襲撃した。


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