第27話 理由と条件

 じじいの願いというのは自分の流派りゅうは後生こうせいに残していきたいという事だ。

 そのために俺を誘拐ゆうかいし、強制的きょうせいてきにに俺に殺刀気真流の全てを教え込んだ。

 そして見事、俺はじじいの願い通りにその流派を完全に体得たいとくしたのだ。


 だが俺はこの流派を、じじいの教えを、俺の次に残そうとは思っていなかった。

 教えるのが面倒だったり、と個人的な理由は色々ある。だけど1つ、大きな理由を上げるしたらそれは、俺以外の人物がやると思っていたからだ。


 俺は心のどこかでじじいが俺とは別にもう1人、自身の流派を誰かに教え込むのではないか?と思っていた。

 じじいの願いは自分の流派を伝えていく事だ。それは俺1人に伝えた所で、俺が次に残すとは思わないだろう。じじいは俺が面倒くさがりだって早めに知ったからな。

 だから俺以外の弟子でしを、俺が去った後にでも取るものだと、俺は思っていた。


 しかし俺はこの世界に来てしまい、じじいの死体と出会った。

 あのじじいの死体を元にしたアンデットと戦った後、思った事がある。じじいは元の世界では自分の願いを叶えられなかったのではないか?と。

 じじいがどのタイミングでこっちの世界来たかはわからない。

 もしかしたら、俺が去った後で新しく弟子を取っていたかもしれない。だが元々、高齢だった事を考えると、例え弟子がいても全ては教えられていないのだろう。例え弟子がいても元の世界ではじじいの願いは完璧な形で、叶えられてないのだろう。

 もし俺が誰かにじじいの流派、教えを伝えなかったら、じじい願いはここでついえる事になってしまう。


 だからこの世界で俺がじじいの願いをつなげば、俺がじじいの流派を、じじいの力を、次に伝えればそれはじじいへのになるかもしれない。


 俺はそう考え、悩んでいた。



(本当に目の前の少女に教えていいものか・・・)



 教えるのは、まぁいい。だが、実際に教えた後はどうなる?

 今現在、この世界での力の使い方の大半は魔物の討伐とうばつになる。

 この少女が力を付ければその分、魔物が殺される可能性がある。



(ダメだな、この少女に教えるのは。いや、人間に教えるのは止めておいた方がいいかもしれない。別に教えるのは人間じゃなくても、村にアンデット達でもいいんだ。いや、それがいいかもな。戦力増強にもなるし一石二鳥だ。そもそも、じじいのほぼ全てを受け継いでいるアンデットがいるんだ。あいつにやらせとけば、俺がいない間、というか、俺が教える必要ないんじゃないか?)



 村に戻ったら早速やる事を頭のなかで整理すると、目の前の少女と目が合う。彼女はひとみふるわせ、俺の答えを待っていた。そこで俺は考えた、結論けつろんを言う。



「ダメだな」



 しばらく考えていた俺が返事を返すと、俺の答えを待っていた少女は目に見えて落胆らくたんした。

 肩を落とし、少し涙目にもなってしまっている。



「そ、そうですか・・・」



 落胆してる緑髪の少女に変わり、黒髪の少女が返事を返した。しかし緑髪の少女は納得いってないのか黒髪の少女の言葉に続けて口を開き、すこし震えた声で質問してきた。



「ど、どうして、ですか?」



 どうして。それを言われると俺は答えに悩む。

 理由は、魔物を少しでも死なせない為に、敵対している人間に力をつけさせたくない。と言うのが本心だ。だが、バカ正直にそんな事を言ったら面倒なことになるだけだろう。

 俺は答えを考えるが、なかなか良いのが浮かばない。そこで俺は彼女の質問に質問で返してみた。



「逆に聞くが、お前はどうして俺に剣術を教わりたいと思ったんだ?剣士のハンターなら他にいくらでもいるだろう」


「それは・・・」



 今度は少女が言葉に詰まる。

 どういった理由で俺の事を知ったのかは知らないが、剣術を教えるのは別に俺じゃなくてもいいだろう。

 なぜ俺なんだ。まさか、彼女は俺の力の事を知っているのか?いや、それは流石にないか。俺があの力を誰かに見せたのはまだ2回だけのハズだ。



「そ、それ、それは・・・っ!」



 緑髪の少女が必死ひっしになにかを言おうとしてる。

 黒髪の少女もそれをかなり心配そうに見守っている。そして彼女は言葉を途切とぎらせながらも、俺に教わりたい理由を口にだした。



「ひ、ひひ、一目惚れしたからっ!・・・です・・・」


「・・・えぇぇぇぇぇえぇぇぇ!!!!!??」



 隣にいる、黒髪の少女は、緑髪の少女がそこまで言うとは思ってなかったようで、口を大きく開けて、目が飛び出ると思うほど見開いて、とても少女がしてはいけない顔をしている。すごい表情だ。今の表情からは本当に先ほどの女性とは思えない。


 そして、緑髪の少女の理由・・・

 なるほど。俺に恋愛感情があるからか。それは盲点もうてんだった。確かにその理由なら、この国に数いる剣士の中から、俺に教わりたい理由になる。



「なる、ほど・・・」



 少女は先ほどの発言がよほど恥ずかしかったのか、顔をリンゴのように真っ赤にしている。黒髪の少女もなぜか顔が赤い。彼女達は混乱しているようで「どどどどどうしよう」「どどどどどうしましょう」と言った言葉を発し、慌てふためいている。



「ああ、あ、あ、ああ、あのっ!さ、さっきの言葉はなんというか・・・言葉のあや、というか、なんとか・・・その・・・」



 緑髪の少女が慌てながらも何か言っているが、俺はその言葉を遮って、1つ提案をした。



「1つ・・・条件じょうけんがある」


「え?・・・条件・・・ですか?」


「そうだ。その条件を守れば俺がお前に剣術を教えてやる」


「本当ですか!」



 緑髪の少女は俺の話に飛ぶように、食いついた。



「ああ、本当だ。そしてその条件は、魔物を殺さない事だ」


「「え?」」



 俺の話を聞いていた2人の少女の声が重なる。

 黒髪の少女も先ほどのとんでもない顔から戻っており、今は普通の驚いた顔をしている。



「俺が一人前いちにんまえになったと、認めるまで、魔物を殺さない事、魔物に攻撃しない事。それを守れるって言うなら、教えてやる」



 俺の提案を聞いた2人の少女はお互いに顔見合せ、考えている。



「答えは別に後でもいい、決まったら伝えに来い」



 俺はそう言って席から立ち上がり、そのカフェを後にした。

 そのテーブル席に残ったのは1つの空のカップと、まだ半分ほど紅茶が残ったカップが2つ、そして悩む乙女おとめが2人だけだった。









(なぜ、あんな提案をしたのか・・・)



 俺は大通りを歩きながら先ほどの自分について考える。俺のこの力は人間に伝えるべきではないと、一度結論が出たハズだ。

 なのに、なぜあの提案を持ちかけたのか。なぜ条件を飲めば教えると言ってしまったのか。



(わからない。かなり複雑な感情、考えだな。これは自分でも理解しきれないな)



 おそらく、あの少女が俺に教わりたい理由を言った時にこの複雑なものは生まれたのだろう。

 今、思えば俺が提案した条件は穴がある。俺が認めるまで、といったが認めて、その条件から外れた後に少女が魔物を殺そうとすれば意味がないじゃないか。



(なにしてるんだ、俺は)



 今も色々な考え、思い、が浮かぶ。

 だが、それらのどれも一言、二言では言い表せないものだ。俺はそれにしばらく悩ませつつも街を歩いた。


 そして気づいた時には、その複雑な考えはなくなり、殺刀気真流をどう教えていくかのプランを考えていた。



 そしてこの日を境に、俺の頭の中の片隅かたすみには緑髪の少女が居続けるのであった。





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