幕間 受付嬢

 私がこの仕事についたのはらくだと思ったからだ。



 ハンター組合の受付の仕事は、主に説明と手続きの手伝い、完了報告の確認、報酬の受け渡しなど、力仕事などはない接客せっきゃくの仕事だ。


 当時の私はどういう仕事につこうか迷っていた。

 そんな時に知り合いからハンター組合の受付の仕事を紹介されたのだ。

 説明を聞いた限りでは難しい事はなく、簡単そうだ、楽そうだ、と思ったので次の日にはその仕事を受けていた。


 最初の1~2年は大変だった。初めての仕事だから当たり前なのだが、専門用語や、数多くある手続きの手順などを覚えるのが、なかなかの困難だった。

 しかし、覚えてしまえばそこからは楽だった。

 ハンター達や別の事務作業を行っている人達との少しの会話だけの仕事だった。

 受付は常に2人体制で行っているため、実際の負担ふたんは半分になる。ハンター達も最初は長々と説明するが、次からは特に説明なしでも問題ない。


 本当に楽な仕事だった。あいつが来るまでは。



「すみません。ハンターになる試験を受けたいのですが」



 その男のとの初めてのやりとりは良く覚えている。


 その男はハンターになりにきたと行った。だが、その身なりはハンターになりにきたとは思えないほどの物だった。



(ええ!?この人その格好でハンター試験受けに来たの!?)



 日頃から様々なハンター達を見てきている受付嬢をしているから良くわかる。

 この男はハンターというものを知らない。もしくは心底なめている。そう思った。

 だけど、ここで「あなたじゃ無理ですよ」と言うわけにはいかない。私は内心驚きながらもしっかりと案内をした。



「はい。ハンター希望者ですね。それでしたら、ちょうどこれから試験がはじまる所なので第3模擬戦場に向かってください」


「分かりました。えーっとその第3模擬戦場というのはどこに・・・」



 男のその言葉を聞いた時に私は気づいた。



(あ、この人何も知らないんだ)



 その男はハンター試験の事を何も調べずに試験を受けに来ていた。ハンター試験を受けに来る人達は試験内容や、試験会場、試験が行われる時間などを事前じぜんに調べておくのが当たり前だ。



「あそこの扉からまっすぐ言って2つ目の十字路を右に行いけば第3模擬戦場です」


「分かりました」



 だけど、私はただの受付嬢。特に何も言うことはなく。男に第3模擬戦場の場所を教えると、男は案内された通りに歩いていった。


 そしてしばらくして、その男は戻ってきた。

 そして、依頼の掲示板けいじばんを見ていたのだ。

 私はそれを見て理解した。その男はハンターになったのだと。そして今すぐに依頼を受けに行こうとして、依頼書を見ているのだと。


 普通、新しくハンターになった人は装備品の準備や、ポーション等の基本的な道具の買い出しなどを行うため、ハンターになったその日に依頼は受けないものだ。だが依頼書を手に取り見ているあの男は、装備品が細い剣1つで防具の何も身に付けてないのだ。そして手ぶらだ。ポーションなどの道具を入れているような物は見受けられない。本当に剣1つ以外、なにも持ってないのだ。


 ハンター試験でその装備なのはまだ、わかる。

 試験を行うのはあくまで人間の試験管であり、いくら怪我けがなどが自己責任だからといって殺すような事はしない。

 だから、防具を身に付けずにハンター試験を受けるのはまだ理解できる。

 しかし、あの男これから依頼を受けようとしているのだ。ハンターの依頼は魔物の討伐が主な依頼内容だ。依頼内容は全体の8割以上が魔物討伐が内容のものだ。

 相手は魔物なのだ、人間のようにやさしくはない。ハンターが死亡することだって少なくはない。

 そんな命のやり取りを行うのに、防具も道具もなしに挑むのは無茶むちゃだ。


 そう思っているとその男は1枚の依頼書を持って私の所に来た。



「すみません、ちょっといいですか?」



 その男はなんと文字が読めないのだという。

 だから、この依頼書に書かれている内容も何一つわからないので代わりに読んで、口頭こうとうで内容を教えてほしいとの事だった。少し怪しいと思ったので私が理由を訪ねると、男は辺境へんきょうの村の出身らしくその村では文字が使われてなかった、そうだ。

 私は一応納得した。実際、ごくまれに文字が読めない人はいると、先輩から話には聞いていた。

 先輩は過去にそういう人から依頼書を読んでほしいと頼まれた事があるそうだ。



「では、説明します。こちらの依頼はファトス村のヘカッド・ヘッジ村長からの依頼になります。依頼内容は数日前に目撃されたアンデット・ナイト2体の討伐になります」



 これも仕事のなので口頭で依頼内容をその男に伝えた。



「なるほど。因みにそのファトス村はどちらにありますか?」


「南門から出て西北西の方角に徒歩で1日ほどの所になります」


「なるほど。では、この依頼を受けたいと思います」



 心の中で少し驚く、ここまでくれば分かっていたがこの男は本気でその格好で魔物の討伐に向かうらしい。



「わかりました。ではこちらの依頼で受注手続きをおこないます」


「よろしく頼む」


「移動には馬を使いますか?よろしければ手配しますが」



 その格好で本人が行くと言っているのなら、私の責任もないし、仕方ない。私は依頼の受注手続きを行う。

 私が馬を使うかどうか聞くと男は少し悩んだ。


 ハンター組合では馬の貸し出しを行っている。

 たまに自前の馬を持っているハンターがいるが、皆が皆、馬を購入出来るだけのお金を持っている訳ではない。

 徒歩だと、距離があるため時間が掛かる事と、移動で疲れてしまう為、ハンター組合は低価格で馬のレンタルを行っているのだ。



「いえ、馬は結構です」



 結局、男は馬の貸し出しを断った。

 まぁ、低価格といっても馬の貸し出しにお金にお金は掛かる、それにハンターになったばかりだから節約せつやくしたいという気持ちは理由できる。


 ハンターは結構、お金を使うのだ。装備品の購入や、その装備品のメンテナンス、ポーションなどの道具の購入。

 特に回復魔法が使えない魔法使いや戦士にとってポーションは必要不可欠なものだ。ポーション1つで命が助かることもあるのだから。



「わかりました。はい、受注完了しました。」


「ありがとうございます」



 男は一言、礼を言うとハンター組合から出ていった。

 そして、その2時間後に私は驚かされる事になった。



 2時間ほどたったころ、受付に先ほどの男が現れた。



(依頼の取り消しにでも来たのかな?)



 私はそう思った。やはり、準備が足りなかったのだろう。その男はきっとそれを理解し、依頼の取り消しに来たのだ。


 だが、その男を良く見てみると手に何か持っていた。白い棒の様なものだ。まるで骨のような―――



(え!?)



「依頼の完了報告に来ました」


「え?」



 その男は依頼の完了報告に来たと言った。私は男が何を言っているのか分からず、少しフリーズしてしまった。

 だってそうだ。その男が受けた依頼の場所はここから1日は掛かる場所のハズだ。それなのに、まだ1日どころか半日も経ってないのに依頼を終わらせてきたと、この男は言っているのだ。



「た、ただいま依頼主に確認してきます」



 フリーズから戻った私は提出された依頼書を手に取り、依頼主に確認してもらうため連絡部署に向かった。私はその男が嘘を付いて、虚偽の申告をしているのだと思った。普通誰だってそう思うだろう。



「あの、この依頼主に完了の確認をお願いします」



 ハンター組合では依頼の虚偽きょぎの申告はしてはいけない決まりはある。もし、それが発覚した場合は最低でもランクの降格こうかく処分になる。

 私はその男が虚偽の申告をしてると思っている、それを証明するためにも、依頼主に確認をとってもらった。


 しかし、確認してもらった。連絡部署の人の答えは、依頼は無事完了しているとの事だった。



「そ、そう・・・ですか」



 そんなバカな。私の頭の中はその言葉であふれてました。



「ん?どうかしたのか?」


「い、いえ何でもないです!」


「そ、そうか」



 連絡部署の人が心配してくれましたが、今はそれどころではありません。

 依頼主に確認して問題ないのであれば、あの男は嘘を付いている訳ではなく、本当に依頼を完了してきた事の証明になる。


 一体どうやって?と考え困惑しながら私は受付の方に戻っていった。



「お、お待たせしました。確認は取れました。これにて依頼は完了です。お、お疲れさまでした。こちらがアンデット・ナイトの討伐報酬になります」


「ありがとうございます」



 困惑しながらも、本当な依頼を完了してきたのなら対応しなければいけない。

 私は男に報酬を渡した。



「すみません。お願いがあるのですが、いいでしょうか?」



 突然の質問につい驚きの声をあげてしまう。



「え!?あ、はい。何でしょうか?」



「いえ、少し前に言いましたが自分は文字が読めません。その為、依頼書を見ても依頼内容がわからないのです。ですので、貴方に依頼を見繕ってもらいたいのです」



 なんとこの男はまだ依頼を受けるそうだ。

 そして私に依頼を選んで欲しいと。

 こう言われてしまっては受付嬢の仕事をしている私では断れない。



「わかりました。そういうことでしたらお受けします。何か依頼の条件はありますか?」


「それでしたら難易度は問わず、移動距離が近い依頼をお願いします」


「わかりました」



 私は掲示板に向かい、適当に距離が近い依頼を選び、1枚の依頼書手に取った。

 内容はサンド・ゴーレム4体の討伐。移動距離も先ほどの依頼の村と大体同じくらいの距離だ。


 条件は移動距離しか聞いてないので、これでいいか、と少し雑に選んだ。

 そしてその男に口頭で説明すると、男は依頼を受けるそうだ。念のため馬を使うか聞くと、今回も馬はいらないそうだ。

 おそらく、この男は徒歩意外の移動手段でもあるのだろう。そうとしか考えられない。

 私が受注手続きを完了すると男は「戻ってきたらまた報告します」と私に言って出ていった。


 その後また2時間ほどで戻ってきた。その男に私は、終始しゅうし苦笑いで対応した。





 だが、問題はそこからだ。私がその日その男の対応したからか男はその後ずっと、私が受付をやっている日は必ず私に所にくる。

 おかげで私の仕事量は増えている。だけど、「私の所にくるな」とは言えない。

 そればかりか、その男は私に気があるのではないか?と組合で噂になった。

 あの男は絶対そんなこと考えていない。きっと私に持ってくるのは話が早いから、とかそんな理由だろう。


 仕事中はあの男の対応。休憩中も同僚どうりょうや噂を聞いた人が私に詳細を訪ねてくる。

 あの男のせいで私の仕事は格段に増えた。オマケに休憩時間も回りがうるさく休憩にならない。


 全部あの男が来てからだ。仕事が増えて大変になったのもこいつのせいだ。この仕事を辞めようかとも考えた。

 だが最近、歩合制ぶあいせいでもないのになぜか給料がどんどん増えている。

 これはあいつがSランクに上がった時からだ。



 増えた給料をみて顔が少しゆるむ。

 もう少しこの仕事を続けてみようと思った

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