第21話 リビングデッド


「ふぅ・・・ここか・・・」



あれからダッシュで2時間ほど、常人ではない体力と速度を見せつけ、カケルはヒエロ高原こうげんに来ていた。

突然始まる平坦へいたんで緑が少ない大地はまさに高原と言われるに相応しい。


ここは昔に戦争の舞台ぶたいとなったことがある場所だ。はるか昔、魔王の軍と人間達による大規模だいきぼな戦争がこの地で行われたとされている。

この事は、この世界の人々にはどちらが勝ったか、負けたかの結末けつまつが書かれていない戦争として歴史的に有名だ。

戦争の舞台だった為か、ここで生まれるアンデッドは多い。だが、それも下位のアンデッドばかりだ。そう簡単に強いアンデッドは生まれない。



カケルがヒエロ高原を見回し例のアンデッドを探す。すると50m程の所に見つけた。

そのアンデッドは動かず棒立ちだ。

カケルはすぐさま近寄った。

カケルとしては今回も変わらず突然平伏してくるんだろうという気持ちだった。


だが、今回は何かが違った。そのアンデッドは何かが違った。



「すまん、少しいいか?」



後ろをからリビングデッド声を掛ける。

カケルが声を掛けると、リビングデッドは反応してゆっくり体の向きをカケルの方に向けた。


そのリビングデッドは身長2m程もある。

これはアンデッドなら別におかしい事はない。アンデッドは生まれる際は生前の体が変化して生まれる為、体格はアンデッドよってバラつきがある。基本的には人と同じ位の体格と身長だが、希にだが人以上に大きい体格アンデッドも現れる。だからこれはおかしい事ではない。


そのリビングデッドは服とマントを身につけていた。

これもアンデッドとしてはおかしくはない。アンデッド化する時に生前に着ていた服もそのまま魔化し、そのアンデッドが身につけていることは良くある。下位のアンデッドは生前が弱かったせいなのか骨の体のみだが、中位のアンデッドになってくるとその現象が良く見られる。

アンデッド・ナイトが何故か剣と盾、時たま鎧を身につけているのは、そのアンデッドの元になった者が生前に身につけており、それが魔化したからだ。

だから上位のアンデッドであるリビングデッドが服といったものを身につけているのはおかしい事ではない。


そのリビングデッドは隻腕せきわんだった。これもアンデッドしてはおかしくはない。

死ぬ間際まぎわに腕を切られ、そのまま死亡したとしてもアンデッド化する時に近くにその切られた腕をのパーツがあればくっ付き、五体満足ごたいまんぞくで生まれてくる。だが、その切られた腕があまりにも遠くにある場合、もしくは切られて何年も経過し、その傷が完全に塞がった後に死亡した場合。

その場合は体の欠損けっそんがあるアンデッドが生まれてくるのだ。このリビングデッドもその二種類のパターンのどちらかだろう。


そのリビングデッドは刀を持っていた。



「なッ!」



カケルは驚いた。このリビングデッドが隻腕なのも軽く驚いたが、その刀を見た時は思わず声を出した。

その刀をカケルは知っていた。その刀には1度だけ、魅了みりょうされた事がある。

だが、その刀は自分の物だった訳ではない。

それは別の人物が持っていた物だ。カケルが、いや悟がよく知る人物の持ち物だったハズなのだ。



「お前、何故その刀を持ってるんだ」



言葉は何とか落ち着いて発せられたが、心は落ち着いていない。カケルは久しぶりにあせっていた。その刀を何故持ってるか色々な可能性がある。だが、色々な可能性がある以上カケルが思っている最悪の可能性だけではないのだ。



「お前、おかしな事を聞くな」



リビングデッドから返って来た返事はうめき声ではなかった。どうやらこのリビングデッドは話せるようだ。それもジャックやリックなどといった少しカタコトの日本語ではなく。とても流暢りゅうちょうな日本語だ。



「これは私の物だ」



リビングデッドが言った瞬間。逆手さかて持ちで刀を握り、そのまま居合いあいを放った。



「・・・っ!」



カケルは紙一重かみひとえで回避する。だが、今の動きをカケルは知っていた。



(今のはじじいが格下かくしたの奴によく使っていた技だ!)



自身の刀を見せびらかしたいだけのように触り、油断しているあいてに逆手持ちで切りかかるというのは悟の師匠が格下相手に良く仕掛けていた技だ。

その技を目の前のリビングデッドは使用した。



「今のを避けるか・・・取ったと思ったのだがな」



リビングデッドは逆手持ちから通常の持ち方に刀を持ち直す。そしてリビングデッドから放たれる弱い殺気がカケルに刺さる。



「お前、その技術とその刀・・・どうしてお前が持っている」


「やはりおかしな事を聞くな、お前。先ほども言ったハズだこれは私の物だ。私が持ってるのだからこれは私の物だ」


「・・・そうか。なら、力ずくだ」



カケルは刀をかまえる。この世界では1度もしたことのない本気の構えだ。



「・・・!!ほう、私と同じとはな」



カケルの構えを見てリビングデッドも構える。

それは両者とも同じ構えだ。手の位置も、刀の握り方も、全て同じ。だが、今さらそんな事をカケルは気にしない。



「いくぞッ!!」



瞬間、常人には消えたようにしか見えない速度でカケルは間合まあいをめた。

これは縮地しゅくちという技。本来、縮地というのは土地自体を縮める事で距離を接近させるという仙人せんにんが使うとされる術だ。だが、仙人ではないカケルは土地を縮める何て事はできない。これはその現象を人力でそれっぽく見せている技である。カケルは構えの姿勢しせいのまま体を一切動かさずに、脚力と技術でリビングデッドの目の前に移動した。そうすると第三者から見ればカケルが瞬間移動したように見えるのだ。


そして急接近したカケルはそのまま斬りかかる。



「甘いな!」



だが、リビングデッドはそれを読んでいたのか自身の刀で受け止めた。


そのまま接近戦でのやりとりが続く、片方が斬りかかると片方がそれを刀で受け止める。

しばらくやり合っているとカケルが動いた。

相手より小柄こがらな事と素早さを生かして相手の左右上下、様々な箇所を狙って攻撃を行う。


だが、それにもリビングデッドは対応して見せた。

左右上下、様々な箇所を狙われているからといって焦って下手に動いてはいけない。リビングデッドは落ち着いて下手にその場から動かずにカケルが行う全ての攻撃に対応して見せた。


リビングデッド、いや、アンデッドの動きは本来にぶいものだ。人間でない分、些細ささいな動きや細かい動作などが出来ない。生前にいくらそれにけた者がアンデッドになってしまってもそれはくつがえらない事だ。

だが、このアンデッドは違った。刀をあやつる技術がとてもアンデッドとは思えない程に精巧せいこうなのだ。



「ちっ!」



攻撃がヒットしないカケルは思わず舌打ちをした。一見、実力が拮抗きっこうしていると思われるが、カケルは刀を操る技術はリビングデッドの方が上なのだと気付いた。だから、戦い方を変える。


カケルはこの世界に来てひそかに練習していた。変わってしまった殺気さっきの使い方を。

この世界に来てカケルの殺気は具現化ぐげんかする事になってしまったが、それは必ずではない。

具現化するか、しないかはカケル自身でコントロール出来るのだ。

仕様しようが変わってしまい、殺気を操作する難易度なんいどは跳ね上がったが、今までのように具現化しない殺気も使う事ができる。



「はっ!」



それが意味するのはカケルが得意としていた、殺気で翻弄ほんろうする戦法せんぽうが使えるということだ。



「っ!?」


(完全に死角しかく!取った!)



カケルはリビングデッドに殺気を放ち攻撃する箇所を誤認ごにんさせた。そのすきにカケルは死角から攻撃を行う。

これは完全に決まっていた。


それが人間だったらの話だが。



「なに!?」



カケルの攻撃は防がれた。刀と刀がぶつかり合う。だが、奇襲きしゅうの失敗に動揺どうようしたカケルをリビングデッドは見逃さず。リビングデッドはカケルを蹴り飛ばした。



「ぐはっ!!」



腹を蹴飛ばされて吹っ飛され、地面を少し転がる。だがカケルはすぐに起き上がり、態勢たいせいを立て直した。



(何故!あれば確実に決まっていたハズだ!)



カケルは先ほど失敗した攻撃について考える。

そして、気づいた。相手がアンデッドたと言うこと。相手が人間とは違うということ。そう、相手には目といった器官が存在しない事に。



(まさか、俺は勘違いをしていたのか?本来、目玉があった位置が目の位置だと思い込み、そこには人間と同じ視野の広さと死角があると思い込んでいた。なるほど、今考えればおかしな話しだ。目という外部の映像を取り込む器官や、それを処理する脳がないのにも関わらず目が見えている。恐らく奴は目というものではなく、別の何かで見ている。そしてその視野は俺が考えているよりずっと広い!)



「くそっ」


「どうした?終わりか?」



リビングデッドはカケルに挑発的ちょうはつてきな態度をとる。だが、カケルも今のだけで全てではない。

この世界に来てから変わってしまった殺気のもう1つの方があるのだ。



「いや、まだだ」


「そうか!お前とはまだ楽しめそうだな」



(奴が蹴り飛ばしてくれたおかげで距離ができた。実戦ではまだ使った事はないが俺が勝つにはやるしかない!)



カケルは刀に殺気を込める。具現化した殺気が刀にまとわり付いていく。刀が見えなくなるほどには殺気を込めた。

そしてその状態の刀を上に大きく振りかぶる。



らえ!!」



そして振り下ろした。たてに放った禍々まがまがしい殺気は万物ばんぶつを切り裂く飛ぶ斬撃ざんげきとなり、大地を切り裂きながら一直線にリビングデッドに向かって行った。



だが―――



「おお!」



―――それはされた。



「なにぃッ!」



リビングデッドは襲来しゅうらいしてきたものとを放って相殺したのだ。



「つくづく私とだな、お前」



カケルだけが見た。リビングデッドの持つその刀には。

カケルと、具現化した殺気が纏わり付いていた。



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