第20話 昇格試験



アドルフォン王国に戻ってきたカケルは組合に向かった。

あの後カケルは組合に報告するために、アンデッドの一部をアンデッド軍の数名から分けて貰っていた。もちろん300近いアンデッドが存在していたので、手持ちの袋にはそんな量は入るはずもなく、中位アンデッドといわれる者から約50本ほどだけ頂いていた。


アドルフォン王国に帰って来たカケルはアンデッドのパーツがぎっしり詰まった袋を背負い、組合に入った。そこで今回の戦利品せんりひんであるアンデッドの骨、約50本を受付に提出しる。

今回も受付を対応してくれるのは例の受付穣だ。カケルの顔を見た彼女は顔を引きつらせながらため息を吐いた。



「少しお待ちください」



受付穣がカケルに待ってるように言った。その後、戻ってきた彼女はカケルを若干にらみながら別室へと連れて行った。


別室に連れられたカケルはとりあえず椅子に座って待機した。外の廊下から聞こえる足音を聞いて歩幅ほはばや体重からどんな人物か当てる暇潰ひまつぶしをしていると、5分もしない内にこの部屋に1人男が入ってきた。



「おお!戻ったか!噂通り早いな!」



組合長のベトランだ。笑顔でカケルの事を確認するとカケルの対面に座る。



「この度は依頼を受けて貰い、感謝している。お陰でドカセン村は1人も死亡者を出さずにすんだ。君が居なかったら今頃あの村は死者で埋め尽くされていただろう。本当にありがとう」


「いえ・・・」


「そして報酬の件だが、今回は緊急の依頼だったんだ。モンスターの討伐報酬、通常報酬に加えて特別報酬を出す事に決定した。これは君の仕事に対して当然の報酬だ。受け取ってくれるね?」


「ええ、もらえると言うのなら頂きます」


「よし、金額が大きいからな・・・受付で受け渡しをすると他のハンター達に何かと言われるだろう。ここに持ってこさせるようにしよう。」



ベトランはそう言うと、外にいる組合員くみあいいんに言ってカケルに渡す予定の報酬をここに持ってくるように言った。

そして、再び席につくと今度は報酬とは別の話を始めた。



「ところで・・・実は今回の事を含めて君の働きを見てね。昇格しょうかくを考えているんだ」


「昇格ですか・・・」


「ああ、そうだ。こんなに早く昇格するのは異例いれいだが、今までの君の仕事をこなす速さ、そして仕事を行う量。そして今回の緊急依頼。それらの事を全て踏まえて君をSランクに昇格したいと考えている。これは私1人の考えではなく、組合全体の考えだ」



ハンターがこれほど早くSランクに昇格する事は過去一度もない。過去、一番早くAランクからSランクに昇格した記録を持つハンターは、現在Sランクでソロで活動してるハンターの男、ペェスタ・プラクターである。

彼が出した1ヶ月という記録が過去最速の記録だ。



「まだ急な話なので昇格試験の方も用意がまだだが、君にとって悪い話ではないはずだ」



別に昇格してSランクになった所で特にデメリットはない。受けれる依頼の範囲が増えるというメリットだけだ。それに、受けれる依頼の範囲が増えるということは、より多くの魔物と出会う事が出来るということだ。そして依頼の難易度が上がると当然報酬も上がる。



「その話、受けさせもらいます」



当然、受ける。これはカケルにとってメリットだらけの話なのだ、この話をるなんて事はしない。



「そうか!ではこの事は私から組合全体に伝えておこう。試験については、今はそれらしい依頼はなくてな。少し先になってしまうが許してくれ」



ハンターが昇格する時、試験を行う必要がある。

それは現在のランクより1つ上のランク、すなわち昇格した際のランクの依頼を1つ組合から指定される。その依頼を無事にこなせたのならその者はれて昇格するというシステムだ。

もちろん同じランクの依頼の中でも、比較的難しい依頼や比較的簡単といった依頼はある。組合もそこは理解しており、いきなりそのランクの最高難易度の依頼を受けさせる何て意地悪はしない。昇格試験の際はそのランクの中でも簡単なものを指定してくれるのだ。



―――コンコン


「失礼します。先ほど言われた報酬をお持ちしました」



どうやら先ほどベトランが頼んだカケルの報酬が到着したようだ。



「ああ、ご苦労」



ベトランは報酬の入った皮袋かわぶくろを受け取った。

持ってきてくれた組合員は渡した事を確認するとその場を後にした。



「これが今回の君の報酬だ。受け取ってくれ」


「はい」



カケルはベトランから手渡しで報酬の金銭が入った皮袋を受け取った。その皮袋はずっしりと重く、今回の報酬がかなりのものだと実感させる。カケルはその皮袋をしっかり仕舞った。



「今回は助かった。改めて礼を言わせてもらう。昇格試験の事はまた追って話そう」


「・・・組合長いい機会ですのでお話があります」


「ん?なんだね?」


「申し訳ないのですが、こちらの都合上つごうじょう、受ける依頼は出来るだけ近場ちかばがいいのです。長期間ちょうきかん掛かるの依頼や遠出とおでの依頼は受ける気はありません。今回の緊急の依頼は近場でしたから引き受けましたが、もし今後緊急依頼が発生しそれが遠出の依頼でしたら引き付けるかどうかわかりません。その事をご了承りょうしょうください」



カケルは今のところ近場、それはこの世界の距離でいうと1日から3日掛かる程度の距離の事だ。

依頼は各地にある、依頼によっては片道だけで1週間掛かる所もある。もっともカケルが走ったら1週間掛からず目的地に到着するが、カケルはなるべく遠出はしたくないのだ。



「ああ、その事か。その話なら受付穣の1人から報告されている。その件についてはもちろんかまわない。そもそも依頼を受けるか受けないかは個人の自由だ、いくらか組合にぞくしているからといって強制きょうせいはしない。」


「なら問題ありません、失礼しました」



一言いってカケルは別室から出ていった。


1人残されたベトランは少し考えていた。それはカケルの移動についてだ。

短距離を望む理由、現地に向かう移動速度。

何か関係があるとベトランは思うのだ。


だが、その話を直接カケルに聞くのは避けた。

あれほど優秀な人材にへそを曲げられてしまいハンターを辞めてしまってはおしいのだ。

カケルから話すのならともかく、こちらから過度な詮索せんさくは控えようと考えた。



「さて、私は私の仕事をしようか」



しばらくしてベトランは通常業務に戻っていった。









そこから4日後。Aランクハンター2組が合同ごうどうで行った依頼が失敗したとの報告が組合に伝わった。

依頼にはない魔物が突然乱入らんにゅう。その魔物により依頼を受けていたハンターは重症じゅうしょうを負ったのだ。



「まさかリビングデッドが現れるとは・・・」


「これはSランクの中でも上位の案件ですね」



組合長のベトランと、1人の男が話している。

今回、依頼に乱入する形で現れた魔物はリビングデッド。

その魔物は上位アンデッドとして登録されている。Sランクのハンターでも楽には倒せないほど強い魔物だ。


組合の記録をさかのぼっても過去2回しか、現れた記録がない。

それもそのはずリビングデッドは一定の強者きょうしゃの死体が魔物化したものなのだ。

人間が死亡し、その死体が放置ほうちされると、数百年という年月を掛けてその死体は魔物化し、アンデッドとなる。

それが生前せいぜん、強者ならばその強さに合わせたアンデッドになる。つまり、アンデッドになった死体が生前に強ければ強いほど、そのアンデッドは高位で強いアンデッドになるというわけだ。


そして、そんなアンデッドの最高峰がリビングデッド。今の所は推察すいさつでしかないが、リビングデッドになった死体の生前は、今で言うSランクハンターかそれ以上の強さだったのではないか、と言われている。

それほど強い魔物、アンデッドなのだ。



「どうしますか?組合長。今はSランクハンターは皆別の依頼に出てしまってます。このままリビングデッドを野放のばなしにしておくのは危険かと・・・」


「ああ、分かってる。今、考えている。」



ベトランは頭を抱えて悩んでいる。

出来ればリビングデッドが遠く移動してしまう前に処理を行いたい。だが、それを可能とするSランクハンター達はタイミング悪く皆、別の依頼を行っている最中だ。



(連絡魔法で連絡してSランクハンターを1組呼び戻すか?いやだが、彼らの受けてる任務もSランクのもの、先延ばしに出来る案件ではない)



頭を抱えてうなりながら考えていると、1つ名案が浮かんだ。



(そうだ!彼なら!)



「そのリビングデッドが出現した場所と、そこに行くまでの距離はどのくらいだ?」


「場所と距離ですか?たしかヒエロ高原こうげんとの事だったのでここからですと・・・丸3日掛かる所ですね」


「3日か・・・なら引き受けてくれるかもしれないな」


「何か考えがあるんですか?」


「ああ、今度Sランクに上がる予定のハンター・・・瞬殺だ」









「それで、話とは?また緊急依頼ですか?」



組合に来ていたカケルはまたもや組合長に呼び出され別室で対面していた。



「いや、正式には緊急依頼ではないのだが、出来れば早めに処理したい内容のものだ」


「はぁ・・・」


「簡単に言うと、滅多めったに現れないリビングデッドという魔物が出現したからそれを討伐してほしいというものだ。ただ、これはSランクでも上位の難易度になるため、本来は君にこんな話は来ないのだが、タイミング悪く今はSランクのハンターが全員他の依頼を受けていてね、この依頼を受けれる者がいないのだ」


「それで俺ですか?」


「そうだ。今回Sランクの昇格試験を控えてる君にこの依頼をお願いしたい。そしてこの依頼を達成してくれたら、その時はこの依頼を持ってSランクのハンターと認定しよう」


「昇格試験もねてですか」


「そうだ。もちろん無理強むりじいはしない。これはそもそもSランクでも上位の難易度だ。無理に受ける必要はないし、この依頼を達成不可能だと個人で判断したら途中放棄してかまない。出来ればこちらとしては無事に討伐してきてほしいというのがこちらとしては本音だが、人の命には変えられない。」


「・・・」



Sランクでも上位の難易度。カケルは個人的にはその魔物を見てみたいという気持ちが強い。もちろん昇格すればいやというほど見られるかもしれない。だが今回、ベトランが言うにはその魔物はなかなか現れないレアなものらしい。

ならばここは受けた方がいいのではないか?



「場所はどこら辺なのですか?」



そう、一番の問題は場所だ。前に直接話したから問題ないと思うが念のためだ。



「君ならそういうと思ったよ」



すでに場所の事を聞くと読まれていたらしく、ベトランは素早い手つきで地図を取り出した。



「場所はここ、ヒエロ高原という所で距離は3日ほどだ」


「3日・・・」



3日というのは今の所カケルが受けたことのある依頼の中で一番長い距離だ。もちろんカケルが走れば、1日も掛からず到着できる距離だ。

これならもう断る理由は存在しない。



「わかりました、この依頼受けます」


「そうか、良かった!依頼の手続きとかはこちらで全てやっておく!君はいつでも出発してくれ!」


「わかりました、ありがとうございます」



カケルは喜ぶベトランに礼だけいい、組合から出ていった。




そしてこの後、カケルはこの世界でおもわぬ強者と出会う事になる。


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