第19話 魅了


ドカセン村が襲われている最中。村の近くの岩影いわかげに1人の人物が身をひそめていた。



「順調だな」



彼女はジュディア。今回のアンデッド襲撃しゅうげき事件は何を隠そう彼女の仕業しわざだ。

彼女は手に透き通った透明の水晶玉を持ち、それをながめながら微笑んでいる。よく見ると、水晶玉は透明なのだが、その中心には紫掛かった黒色の炎の様なものがある。そしてそれは少しずつだが大きくなっている。


この水晶玉は人の恐怖や不安等の負の感情、そして死を吸収するアイテムなのだ。彼女はこのアイテムを魔の力で満たし、それを使用する事でどうやってかは分からないが魔王をこの地に降臨させようとたくらんでいる。


これは封印の祠で、オラクガが魔王の封印を解く為に使っていた水晶とは全くの別物だ。見た目は非常に似ているが、性能は全くの別物だ。

オラクガが魔王を復活させる為に部下に制作してもらった水晶は魔の力を溜め込み、それを凝縮ぎょうしゅく、それが十分に溜まった所で封印魔法を内側から破壊するための物だ。


対して彼女が持ってる水晶は魔の力を溜め込むだけで凝縮はしない。この水晶は負のエネルギーを魔の力に変換し、溜めておくだけの物だ。

それをどう使用して魔王を降臨させるのかは全くの謎だが。



「ふふっ」



彼女は魔の力が溜まっていくのを見て、微笑む。余程嬉しいのかその後、鼻歌まで歌いだす始末。

これでは端から見たら、キレイな水晶に見とれて鼻歌を歌っている可愛い少女にしか見えない。



だがその浮かれた状態は突然、終わりを告げる。



「ん?どうした?」



先ほどまで順調に大きくなっていた水晶の炎が突然、止まったのだ。目を凝らして水晶を見ても全く大きくならない。



(一体なにが起きた!?アンデッドが村人を全て殺したのか?いや、それなら村人の人数からしてもっと炎が大きくならないとおかしい!村人に逃げられたか?いや、あの村の自警団程度で止まるアンデッド軍ではない!ならば私のアンデッドの軍に何かあったとでもいうのか!?)



色々と考えるがここは一度自分が様子を見に行くしかない、との結論にいたり、彼女は魔法を唱える。魔法が発動し彼女の体はちゅうに浮いた。



「くそっ、順調だったのに!一体何が起きたんだ!」



そうして彼女は自身のアンデッドの軍勢の元に全速力で飛んで行った。



だがしかし、彼女はそこでトンデモナイ光景を目にすることとなる。








1人の少女が困っている頃、カケルはひざまづいたアンデッド達に対して、小さいジャックを交えて事情聴取じじょうちょうしゅを行っていた。



「で、何でこの村を襲ったんだ?」



カケルがアンデッド達に問いかけるが、帰ってくる答えは、うめき声のようなもの。これは魔物には言葉に聞こえるのかも知れないが、残念ながらカケルはそうは聞こえない。そこで、すかさず小さいジャックが通訳をおこなう。



「魔人サマ。ドウヤラコノモノ達ハアヤツラレテイタヨウデス」


あやつられていた・・?今は操られてないのか?」


「魔人サマヲ一目見タ時ニ目ガ覚メタヨウデス」


自分にそんな効果があったとは・・・一体魔物から俺はどう見えているのか疑問に思うカケル。だがその話はまた別の時に掘り下げよう。今はこのアンデッド達だ。



「操られていたとうのは魔法で、か?」


「コノアンデッド達の証言ショウゲンヲ聞ク限リデハ魔法カト」



魔物を操る魔法。そんなものがあるのか。

カケルはファンタジー世界の洗礼を受けていた。そして一気に不安になった。もし仮にスライムさん達が操られてしまったら・・・

カケルは瞬時に頭を振りその嫌なイメージを消滅させる。



「お前らを操った犯人はわかるか?」


「人間ノ少女ノヨウナ人物ダッタト言ッテイマス」


「少女?」



少女。一体何故こんな事をしたのか、イタズラにしては度が過ぎてる行いだと思うが。

カケルが犯人の動機どうきについて考えていると―――



「お前!そこのお前!!何者だ!」



カケルは声のした方向。上方向を見てみる。

そこには黒い服を着た空を飛ぶ少女がこちらを睨み付けていた。









(一体なにが起きている!何故、私のアンデッド達があの男に跪ついている!?あの男は一体なんなんだ!!)



この光景を見たジュディアは混乱していた。

何故か自分のアンデッド全員が、1人の男に対して跪ついてるという驚きの光景。

様々な考えが頭の中で浮かんでは消えていく。

そして彼女はたまらずその男に声を荒らげて質問した。



「お前!そこのお前!!何者だ!」



男は飛んでいる彼女を見上げる形で両者の目が合う。



「お前こそなんだ?」



男は彼女を見つけると返事を質問で返してきた。だが、こちらから聞いといてあれだが、彼女は男の質問に答える気は全くない。彼女の事を、彼女の企みを、魔王教の事を、知られる訳にはいかないのだ。



「答える気がないのなら結構!アンデッドども!その男を攻撃しろ!」



彼女の言葉がアンデッド達に伝わる。だが、アンデッド達は全く動かない。男の前で跪ついてる状態からピクリともしない。



「ちっ!《死者限定誘惑/アンデッド・テンプテーション》!」



こちらの言うことを一切聞かなくなったアンデッド達に対して魔法を使用する。《死者限定誘惑/アンデッド・テンプテーション》これはアンデッド系の種族を魅了みりょうし自身にしたがわせる事ができる、ジュディアだけが使用できる魔法だ。

彼女はこの魔法を用いてアンデッドの軍勢ぐんぜいを操り、この村を襲撃したのだ。


この魔法は上位のアンデッド以外は全てのアンデッドを魅了できる。上位のアンデッドはあまり個体が少ない上に、その圧倒的な魔の力に、この魔法では通用しない。だがこの場に連れて来たのはほとんどが下位のアンデッド。中位のアンデッドもいくらか含まれているが今は関係ない。この魔法は上位以下のアンデッドを全て魅了する。


するはず・・・なのだが・・・



「な、何故言うことを聞かん!?」



アンデッドは一向に動こうとはしない。

男の前で跪ついたままだ。ジュディアはその事に驚きを隠せない。

実はこの魔法はアンデッド達にしっかり掛かっていた。掛かっていたのだが、彼女では今のアンデッド達を魅了しきれなかった。それだけだ。


1人の男がいるとしよう。男の前に世界で一番美しい女性が現れる。そしてその後、世界で10番目だか、20番目だかの美しい女性が現れる。

その後男にこう言う。先ほど現れた2名の女性どちらか一方と付き合えます、どちらをえらびますか?、と。

この場合その男はどちらを選ぶか。

それは当然、最初に見た世界で一番美しい女性だろう。一部例外を除けば皆同じことを言うだろう。


つまりはそういう事だ。アンデッド達はすでに従えるべき最高の人物に出会っている。

その心は固く決まっており、そんじょそこらの者が魔法やらなんやらで化粧けしょうして誘惑ゆうわくした所でくつがえる事は決してないのだ。



「くっ!こんなはずではっ!」



こんなはずではなかった。もしこの場所にこんなイレギュラーがいなければ今頃、作戦は成功して魔の力が溜まった水晶を他の仲間に見せびらかしていた所だろう。

悔しさが込み上げる。


そしてここからどうするかを考える間はなかった



「お前が今回の犯人か」



真後ろから聞こえた声にジュディアは直ぐに振り向く事ができなかった。

ジュディアは今、魔法を使い、高さ20m辺りにの所で浮遊ふゆうしているのだ。そこには足場なんて物は存在しない空中だ。そんな状況で何故後ろから声がするのか、その事を考えてしまった為に反応が遅れた。まぁ遅れなかったからといってどうにかなる訳ではないのだが。



「ぐわっ」



男はジュディアの首根っこをがっしりと掴み、そのまま地上へと引きずり下ろした。



「よっと、お前達を操っていた犯人はこいつか?」



男は首根っこをもったまま、まるでぬいぐるみでももっているかのようにアンデッドの前に差し出した。



「オァァ」


「ソノヨウデス」



うめき声しか出せないアンデッドに代わり直ぐ小さいジャックが通訳を行う。ジャックの通訳も慣れたものでもう男がなにも言わなくても通訳をしてくれる。



(なっ、こいつはトレントか!?小さいが確かにトレントだ!森の番人が何故こんな所に!)



今だ首を捕まれているジュディアがトレントに驚く。あのトレントもこの男に支配されているのか、この男は一体どれだけの魔物を支配しているのか、自分と男の力の差を思い知ったジュディアは、次はここから逃げる事だけを考える。



(くそっ!こんな所で使いたくなかったがやむを得ない!使うしかない!)



彼女はふところに隠し持っていたアイテムを使用。

次の瞬間、彼女の自身だけがその場から消え去った。



「なに・・・?あーまた魔法か?」


「恐ラク転移魔法ノ類イカト」


「つくづく便利な物だな」



男は犯人に逃げられたというのに呑気のんきに小さいトレントと話していた。



「犯人には逃げられてしまったが、仕方ない。次の機会にするか。それよりこいつらをどうするかだな」



その後しばらくして1人のハンターが、避難した村人に、解決したことを説明。村人が村に戻った時には、そこにはアンデッドの骨一本もなかったという。









「どうしたのだ、ジュディア。緊急きんきゅう招集しょうしゅうとは・・・よほど作戦が上手く行ったのか?」



薄暗い部屋の中で8人の男女が集まっている。

その8人の中で、余裕がない人物が1人。この緊急召集を行ったジュディアである。

彼女1人だけが余裕のない表情をしている。



「・・・結果を言うと作戦は失敗した」


「なに!?」



ジュディアが重そうに口を開き発言した。

そして彼女から放たれた言葉に周りは驚きを隠せないでいた。



「ははっ!あれだけのアンデッドを率いて失敗とか!何をどうしたら失敗できんのさー!」



1人女性がジュディアをバカにする。

だが、バカにしていた彼女もジュディアの次の言葉を聞いて黙ってしまう。



「アンデッドの軍は・・・うばわれた」


「は、はぁ!?」



先ほどバカにしていたの女性が驚いた反応を見せるもジュディアは話を続けた。



「それに、使いきりの強制転移アイテムまで使ってしまった。大損だ。」


「ま、まて一体何があったというのだ!」



1人の男が、この場にいる誰もが聞きたい疑問を口にだした。



「もちろん何があったかは話す。これは私だけの問題ではないからな」



そしてジュディアは一呼吸おいてから全てを話した。

何が起こったのか、何をされたのか。

全て事実の通りに話した。



「話はわかった。しかし、その話は本当か?」


「残念ながら本当だ。そもそもこの場で私が嘘をつく理由がないだろ」


「確かにそうだけど、その話が本当だとするとその男は・・・」


「ああ、そうだ。奴は恐らく、我々より優れたモンスターテイマーだ。」



その後、8人の男女はその男についてどうするかを長々と話し合っていた。



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