第九十三話「執務室での謁見」
◆
「待たせたな」
僕達は立ち上がり、陛下に礼を尽くす。 アイエル様もシュエも、言われた通り僕に引っ付くのをやめ、陛下に対して礼をした。
「お待ちしておりました、陛下。 それに宰相殿もご無沙汰しております」
どうやら官僚の男性はこの国の宰相らしい。 カイサル様の言葉に宰相は頷き返す。
陛下はソファーに腰掛けると、僕達に座る様に促した。
僕達はそれに従い、ソファーに腰掛ける。
「此度の賊の撃退、見事であった。 まずは改めて礼を言わせて貰おう。
それで、カイサルよ。 その方がこの子達をあれほどの手練に育てたのか?」
カイサル様は陛下のその質問に、包み隠さず僕達の事を説明した。
「いえ、陛下。 この子達の才能が異常なのです。 正直に申し上げますと、私はこの子達には環境を与えたのみで、後はロゼに剣術を教えた程度。 それも、大した事は教えておりません」
「カイサルよ、馬鹿を申すでない。 こんな子供が師事なしでどうこうできる訳がなかろう」
そこに口を挟んだのは、アリシア様だった。
「陛下、お言葉ですがカイサルの申す事は事実にございます」
そうアリシア様が前置きすると、徐に魔術を無詠唱で発動し、水球を生み出す。 陛下の前で何をと思ったのだが、すぐに水球魔術を制御し、花の形を作り出して陛下に見せた。
「無礼者!」
宰相が慌てて魔術発動するアリシア様を警戒し、怒りを露にするが、アリシア様はそんな宰相を意に介さず笑顔で陛下に説明した。
「陛下、無礼を承知で、ご理解いただく為に魔術を使わせて頂きました事、深くお詫び申し上げます」
陛下は、アリシア様のその無詠唱で作られた水の魔術を見て、目を細め思考する。 宰相は慌てて兵士にアリシア様を取り押さえる様に命令するが、陛下はそれを止めた。
「何をしている! その者を捕らえよ!」
「よい!」
そして、陛下はアリシア様に言った。
「見た事もない素晴らしい魔術だ。 流石、宮廷魔導士の血縁者だけはあるな奥方よ…… 其方がこの子達に師事したのではないのか?」
陛下はそう褒めるが、アリシア様はそれに首を振り、説明を加える。
「はい。 私は教わった側にございます。 この魔術はそこのロゼに教わったものなのです。 これは紛れもない事実。 私は元々それほど魔術が得意ではありませんでしたから…」
その言葉に、宰相は陛下の前で魔術を使った事を含め、良い印象を持てないのか、アリシア様に強く当たる。
「何を申す! こんな子供が其方に魔術を教えたと申すか! 妄言も対外にせぬか!」
「宰相! 口を慎め」
「しかし陛下っ」
「宰相よ、お主には分からぬのか? 奥方が行使した魔術が、如何に高度な技術を必要とするものか… 恐らく、今の宮廷魔導士でもできるかどうか怪しい魔術だ。 それを扱う奥方の言を軽く見るでない」
陛下の言葉に、宰相は言葉を無くす。 そして自分が陛下にたてついている事に気づき、謝罪した。
「申し訳ありません、陛下…… 出過ぎた真似を致しました」
「よい。 其方が余の事を思っての事。 余は理解しておる」
陛下のその言葉を聞き、宰相は再び陛下の後ろに控えた。
陛下はアリシア様に向き直ると、宰相の言を詫びる。
「すまぬな。 だが、奥方よ。 其方の言葉を信じるのであれば、そこのロゼと申したか? その子がまるで宮廷魔導士にも匹敵する実力を兼ね備えていると取れるのだが?」
「その通りでございます」
アリシア様は迷う事なく肯定する。 いやいや、僕の魔術の腕前が、宮廷魔導士に匹敵するとはとても思えないのですが…… 皇帝陛下も、僕が宮廷魔導士に匹敵する実力があるとは思えないのか、先ほどの襲撃の件を持ち出す。
「はは…… 確かに、賊の殲滅の腕前は見事であった。 未知の魔道具を使っておったみたいだが、魔導士であるならばそんな魔道具に頼らずとも賊は殲滅できよう…… 違うか?」
確かに魔道具に見える様に誤魔化していたけど、実際あれも魔術なんだよね…… そんな事を知らないアリシア様が、僕に訊ねてくる。
「ロゼ。 説明してもらえる?」
いきなり振られ、僕は話して良いのか分からず、カイサル様に視線を向けて様子を覗う。
「陛下にお話して差し上げろ」
「畏まりました」
僕はカイサル様の了承を得て、自分の魔術の事を話す。
「陛下、何故あの時、普通の魔術を使わなかったのかをご説明いたします。 魔術を使わなかったのは、あの場には賊以外にも人があふれて居たからです。 巻き添えにしてしまっては事ですので、被害を最小限にとどめる為に普通の魔術は控えさせて頂きました……
それに実は魔道具に見えたあの武器ですが、あれは魔道具ではなく、僕が生み出したオリジナルの魔術なのです」
「ほう… アレが魔道具の武器で無く、オリジナルの魔術と申すか」
「はい…… 陛下、この場で魔術を使う事をお許し願えますか?」
僕は一応陛下に確認を取る。
「許そう」
そう言質を取ってから僕はマナを操作し、手にあの時の武器を作り出した。
「これが先ほどの賊を倒した時に使った魔術でございます」
何もない空間から現れたマナで作った銃を見て、陛下は「魔道具にしか見えぬが……」と、素直な感想を述べる。
僕はそんな陛下にも分かる様、そのまま説明を続ける。
「これは僕が魔術で生み出した、いわば魔術武具とでも言いましょうか。 先ほどアリシア様が披露された魔術と同じ原理で作った魔術の武器です」
僕はそう言うと、銃の形をマナを操作して剣へと作り変える。
それには流石に驚いたのか、陛下は目を見開いた。
「魔術で作っている武器ですので、この様に形を自由自在に作りかえる事が出来ます」
そう言うと今度は盾に形に変え、そして今度はナイフの形に変えた。
「すごいな…… だが、本当に魔道具ではないのか?」
やはりまだ魔道具ではないかと言う疑いは晴れないみたいだ。 こうなったら仕方ない。 僕は作り出したナイフを無害な杖の形状に変え、陛下に差し出した。
「では、直接触れて、目で見て確認されますか?」
僕にそう言われ、陛下は恐る恐るマナで作り出した杖を受け取る。 陛下の手に収まると、僕の制御を離れた杖は、光になって拡散して消えた。
「これで、魔術だと信じてもらえたでしょうか?」
僕のその言葉に、陛下は頷く。
「ああ、これは驚いた。 私の意志に関係なく、まるで実態を持たない様に消えるとはな…… まさか本当に魔術だったとは……」
魔道具であれば、所持者が移れば自動的に権限が移る。 勝手に消えてなくなる事は無い。
手に残るマナで作り出した杖の感触を思い出しながら、陛下は僕に訊ねてきた。
「ロゼと申したか、オリジナルの魔術を創るなど、そうそうできるものではない。 どこでその様な知識を身に着けた?」
と言われても、誰に教わった訳でもないので、素直に説明するしかない。
「この魔術は、基本の魔術を自分なりに解析して改変しただけです。 やってみたら出来たとしか言えないのですが……」
困る僕に、カイサル様が信憑性を持たせる為に説明を付け加えてくれる。
「陛下、ロゼの魔術に関してなんですが、少し宜しいでしょうか?」
「聞こう」
「ロゼは三歳の時、執事長でロゼの祖父にあたるガトフに、文字を少し習った程度で、誰にも教わる事なく書庫にある本を読み進め、独学で魔導書を解読し、魔術を行使してみせた天才児です。 彼の知識のほとんどは市販されている魔導書から、彼なりに理解を広めたものばかり。 私も彼の才能に目をつけ、魔術の家庭教師を雇ったのですが、雇った家庭教師の結界魔術を初見で破壊する程の実力を見せ付け、師事する事が無いと言わしめた程です。 さらには娘のアイエルの魔術もロゼが師事し、今では学院に主席で入学する程の才能を開花させております。 決して嘘ではございません」
陛下は、そのカイサル様の説明に「待て待て、それは実か!?」と驚く。
「その話が事実であるなら、ロゼは三歳の時に魔術を独学で覚え、人に教える程に理解を深めたと申すか?」
「左様で御座います、陛下……」
「俄かには信じられん……」
その陛下に対し、カイサル様も同意する。
「私も陛下と同じ気持ちです。 ですが、私はこの目でこの子の成長を見てきたのです。 全て事実であると神に誓いましょう」
陛下は「そうか……」と無理やりに納得する。
「してロゼ。 其方の魔術の実力を確認しても良いか? 勿論、上級魔術くらいは扱えるのであろう?」
僕は正直に答えた方がいいのか判断に迷う。 だって、イリナ先生に貰った魔術書に書いてあった特級魔術を含め、自ら編み出したどこに分類されるか分からない様な魔術まで覚えている。 それを全てカイサル様に見せた訳でもないので、ここでどこまで話して良いのか分からない。
無難に魔術書に載っていた特級魔術を少し使える程度と、控えめに報告した方がいいかもしれない。 恐らく学院の入学試験で、アイエル様が使った特級魔術の件は知られて居るはず。 それを踏まえると僕が使えないと言うのは不自然になる。 とりあえず曖昧に答えた方がいいかもしれない。
「はい。 手元にあった魔道書に書かれている魔術であれば、上級魔術を含めほぼ全ての魔術を覚えました」
僕がそう応えると、関心したように呟く。
「ほう… それは凄い。 ちなみにご息女の実力はどうなのだ? カイサルよ」
そして、式典で見せたアイエル様の結界魔術の事を思い出し、カイサル様に質問を投げかける。
「はっ、娘のアイエルは、ロゼと同等に近しい実力を持っております」
陛下は「なんと!」と驚き「それは凄い… まさか、宮廷魔導師に匹敵するであろう実力を持つ子が、二人も現れるとは……」と言って、嬉しそうに笑う。
「ロゼ、其方には祝賀パーティの賊討伐の功績を称え、褒美を出さねばならぬな」
そう言うと陛下は一考し、宰相に相談なく笑みを浮かべると言い放つ。
「ロゼ・セバスよ。 此度の賊討伐の功績を称え、其方に準男爵位を授ける!」
陛下の突然の叙爵宣言に、僕は思わず「え?」っと聞き返してしまった。
カイサル様を始め、宰相もその場に居た皆が陛下の言葉に耳を疑った。
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