20.好き、大好き

 なんていってもわかりやすい。好き、それも大好きだっていうこと、どうみたってダダ漏れている。

 隣に並ぶ少女の顔が、夕日みたいに真っ赤なのを、本物の夕日を前に横目で見ていた。

 川原の土手には、ぽつぽつとカップルの姿が見受けられる。ここは日没の綺麗な一種のデートスポットで、お金のない高校生も、そこそこお金のありそうな大人たちも、それにいぬの散歩の人なんかもよく訪れる。平時は閑散としているのが、この時間帯はそれなりの人で賑わうのだ。


 二人は自転車で、学校から少し離れたここにやってきていた。カバンを芝に放り投げ、両足も同じように投げ出して。セーラー服のリボンが二つ、風に揺れている。

「結構張り切ってきたよねえ」

「来ちゃったねえ」

「夕日、見たかったの?」

「ん。」

 問うた時、彼女は短い返事をしただけで、川の向こうへ沈みゆく夕日をまっすぐ眺めていた。

 なんだか妙に素っ気ない態度に思えて、首をかしげながら、一緒にまっすぐ眺める。

「あ、魚。」

「ほんとだ。跳ねてる」

 そんなにおかしいことでもないのに、二人で顔を見合わせて笑った。


 しばらく笑ってその後に、彼女が肩に頭を乗せてきた。そのままもたれかかってくる。肩を貸してやる形になった。

「夕日……沈んじゃうねえ」

 さっきまで笑っていたのに、何だか泣き出しそうな声に聞こえて、風で乱れた彼女の髪を直してやる。

「まだ時間、あるから大丈夫だよ」

「ね、 」

「なに?」

「このままでいていい?」

「いいよ。」

 だって。

 なんていってもわかりやすい。彼女からは大好きが漏れているのだから。それに、それにだ。

 自分からだって、たくさんの大好きが盛れだしているに違いないのだ。


 夕日が沈むと夕闇がやってくる。

 この優しい時間はあとほんの少し。あと少しだけこのままで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る