90、涙あふれて
と、ウェレイの体からかくんと力が抜けたのが見て取れた。後ろに傾いでいく愛娘の体。届かない事が分かってはいても反射的に手が出るが、その体を受け止めたのはいつの間にか彼女の背後に移動していたヴェネだった。
「気は済んだ? ウェレイさん」
「……済んではないけど、ちょっとだけ、晴れたかな」
力無く笑い、ウェレイはヴェネの支えを振り払う。そして覚束ない足取りながら歩き出し、再度ベルンの目の前で立ち止まった。
社長として……いや、義理の父親として、何かを言うべきだと思った。けれど、乾いた唇は互いに貼り付きあい、思い通りに動いてくれない。
そんなこちらの煩悶を読み取ったのだろうか。ウェレイは笑った。
優しく、柔らかく、明るく頬を緩めて。いつもと同じ
「もう、いいんだよ。お父さん、頑張ったもん。……遅くなって、ごめんね」
愛娘の言葉に、目頭がかぁっと熱くなる。慌てて指で抑え込むが、
「……あ、謝るのは、私の方、でしょう……!」
自制など、到底出来なかった。堰を切ったように次から次へと涙が溢れ出てくる。この一年で溜めこんだモノを、全て押し流すかのように。
ベルン・スコルピオは泣き続けた。そんな自分の弱さをこれ以上なく痛感しながらも、ただただ泣き続ける事しか出来なかった。
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